発表の様子
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 国立病院機構 東京医療センターと神戸大学の共同グループは、3Dプリンターを腹腔鏡手術のトレーニングに応用した事例について、「ITヘルスケア 第八回学術大会」(2014年5月24~25日、東京医療保健大学)で発表した。講演タイトルは「腹腔鏡手術トレーニングへの3次元骨盤モデル導入の試み」である。

 腹腔鏡手術は、腹腔鏡と呼ぶ内視鏡を用いる腹部外科手術で、従来の開腹手術に比べて侵襲度が低いという特徴がある。近年、その実施件数は飛躍的に増加しているという。

 一方、腹腔鏡手術は視野や手術器具の可動域が限られるなどの難しさがあるため、技術を習得するためのトレーニングが必要になる。従来、東京医療センターでは「ボックス型手術シミュレーター」と呼ぶ装置を使ってトレーニングを行ってきた。ただしこの方法では、実際の手術に近い環境で技術を習得したり、新しい技術の有用性を事前に評価したりすることが難しかった。また、初心者以外にとっては簡単すぎてトレーニングになりにくいという欠点もあったという。

 そこで研究グループは、腹部CTのデータを基に3Dプリンターで造形した3次元骨盤モデルを開発。これを使って「腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術」と呼ぶ、狭い骨盤腔内で行う難度の高い手術のシミュレーションを実施した。

 鼠径ヘルニアの基本モデルはスポンジやナイロンストッキングを用いて作製し、これを3次元骨盤モデル内に収めることで骨盤腔内での手術を再現している。3次元骨盤モデルは、手術支援ロボット「da Vinci」による前立腺摘出術のトレーニング用にファソテックが開発した骨盤シミュレーターを原型にした。この骨盤シミュレーターは、腹部CTから取得した日本人成人男性の骨盤データの平均値に基づいて、3Dプリンターで造形したものである。

 シミュレーションの結果、手術器具の可動域や術野における空間認識の状況などを、従来に比べて忠実に再現できることが分かった。その分、難度も高まり、熟練者でもシミュレーションのタスクを完遂するのに15分以上を要した。すなわち、初心者だけでなく、ある程度のレベルに達した修練者にとっても有用なトレーニングになり得るという。今回の手法は、内視鏡医などを含む手術チーム全体でトレーニングを実施できる点も大きなメリットだとしている。