図1 2013年春に発売されたOculusの開発版
図1 2013年春に発売されたOculusの開発版
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図2 米Intel社の展示ブース
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図3 フルHD版
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図4 CESで披露した有機ELパネル採用品
図4 CESで披露した有機ELパネル採用品
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図5 装着者が前のめりになると、その距離に応じて画面内の物体が近づくように見える
図5 装着者が前のめりになると、その距離に応じて画面内の物体が近づくように見える
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図6 本体
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図7 カメラ
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図8  YEI Technology社の「PrioVR」。写真中ではOculus Riftを身に着けてはいない
図8  YEI Technology社の「PrioVR」。写真中ではOculus Riftを身に着けてはいない
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図9 Virtuix社の「Virtuix Omni」
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図10 全天球カメラとOculus Riftを組み合わせた映像配信システム
図10 全天球カメラとOculus Riftを組み合わせた映像配信システム
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図11 視聴者の中心視野の領域にのみ、高解像度の映像を表示する。画面内の赤枠がその範囲
図11 視聴者の中心視野の領域にのみ、高解像度の映像を表示する。画面内の赤枠がその範囲
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 ゲーム愛好者やゲーム開発者から熱狂的に支持されているHMD(ヘッドマウントディスプレイ)がある。米Oculus VR社が開発した「Oculus Rift」だ。Kickstatarで目標金額の10倍以上を集めたことで話題をさらい、2013年春に開発者版が発売されてからは、性能の高さと約300米ドルという手頃な価格に注目が集まった。同社によれば、開発版は既に5万台が売れたという(図1)。技術関連の展示会に出展すると、体験しようという来場者で瞬く間に行列ができる。例えば、2014年1月に開催された「2014 International CES」では、米Intel社の展示ブースの他、一部の顧客だけが入れるプライベートルームで実機を見せていた(図2)。いずれも実機を体験しようという人々でごった返していた。

 Oculus Riftは、両眼、光学非透過型、いわゆる「没入型」のHMDである。パソコンに接続して利用する。特徴はゲーム用途に向けて視野角を広げたこと。対角で110度と、映画などの鑑賞を目的にした没入型に比べて2倍ほど広い。3次元(3D)表示に対応しており、立体視が可能だ。加えて、モーションセンサーを搭載しており、装着者の頭の動きに応じて映像が切り替わる「ヘッドトラッキング」機能に対応する。

 広い視野角と3D表示、ヘッドトラッキングによって、装着者はあたかもゲーム内の世界にいるかのような感覚を得られる。中でも「ヘッドトラッキングがスムーズ」(複数のゲーム開発者)と評価されている。

 こうした性能であるにもかかわらず、開発者版の価格は約300米ドルと、映画などの鑑賞を目的にする一般的な没入型HMDの半額以下だ。安価な理由は、専用の部材を利用するのではなく、既存品の部材を流用しているからである。そのため、開発者版の外観はやや大きくて「無骨」だが、装着できないほど大きく、重いわけではない。

進化するハードウエア


 Oculus VR社は、製品化に向けて、開発版の改良を進めている。2013年春に販売を開始した初期バージョンでは、1280×800画素の液晶パネルを左目用と右目用に分けて利用していた。つまり、左目、右目それぞれ640×800画素の映像を提示する。次に1920×1080画素のフルHDの液晶パネルを利用した試作品を、同年6月のE3で披露した(図3)。片目当たりは960×800画素になる。

 そして2014年1月のCESでは、表示パネルに有機ELパネルを利用した(図4)。加えて、装着者の頭の位置を検知する機能も追加した。この機能を搭載することで、装着者が前のめりになると、その距離に応じて画面内の物体が近づくように見える(図5)。

 頭の位置を検知するため、本体の周囲に40個近くの赤外LEDを搭載。その光を赤外カメラで取得して、頭の位置を推定しているという(図6、7)。

エコシステムを形成


Oculus Riftが注目を集めるとともに、Oculus Rift用の周辺機器を開発するスタートアップ企業や対応ゲームを提供するゲーム企業も出てきており、一種の生態系(エコシステム)を形成しつつある。Oculus Riftに対応したゲームソフトの他、対応コントローラーも登場している。

 例えば、米YEI Technology社の「PrioVR」は、体の動きを検知するセンサーシステムである(図8)。頭部や肩、肘などにモーションセンサーを搭載した小型モジュールを装着し、同モジュールで検知したユーザーの動きでOculus Rift対応ゲームを操作する。

 歩く、走るといった動作を検知するOculus Rift対応コントローラーもある。それが米Virtuix社の「Virtuix Omni」である(図9)。ランニングマシンを利用しており、ユーザーがその場で歩くと、ゲーム内のキャラクターも移動する。Virtuix社はKickStarterで資金を調達し、2014年内に製品化する予定である。価格は約500米ドルになる。

ゲーム以外の用途も


 Oculusの応用先は、ゲーム分野にとどまらない。VRの世界に大きな変革をもたらしそうだ。2014年2月に開催された「NTT R&Dフォーラム2014」では、全天球カメラとOculus Riftを組み合わせた映像配信システムをNTTが披露した(図10)。

 コンサートやイベントなどの会場全体の様子を撮影した全天球映像を配信し、Oculus Riftで視聴する。視聴者の頭の向きに応じて映像が変化するため、あたかも会場にいるかのような感覚を得られる。ドワンゴと共同で開発しており、展示では同社のライブ会場「ニコファーレ」で撮影した全天球映像を利用した。

 披露した映像システムの特徴は、限られた通信帯域でもなるべく高品質な映像を視聴できるようにしたこと。全天球映像は、1600×1200画素のカメラ6台で撮影したもので、この映像をH.264 MVCで符号化し、送信している。2.5Mビット/秒の帯域で伝送するので、視聴者の中心視野の領域にのみ、高解像度の映像を表示する(図11)。その周囲には、低解像度の映像を表示する。つまり、2種類の映像を伝送している。

 配信する全天球映像のすべてを高解像度にしてしまうと、データ量が増えて、HMDに映像を表示するまでに時間がかかるので、こうした映像伝送方式を採用した。表示に時間がかかると、頭を動かして視点が変わったときに、映像の表示が追いつかずに、真っ黒な画面になってしまう。それを避けるために、低解像度の全天球映像を常に表示できるようにして、頭を動かした直後はその低解像度映像を表示し、2~4秒後に中心視野部分に高解像度の映像を表示させている。