“生物模倣”などと表記されるバイオミメティクスの国際標準化を議論する国内の審議団体である公益社団法人高分子学会のバイオミメティクス研究会は、議論をこのほど、本格化させた。

 これまではハスの葉表面のはっ水性など、生物の仕組みなどを模倣する材料技術が主な研究対象だった。それがここに来て「持続可能な社会を構築する理論や技術体系などの生物多様性全体を解明し応用する学術・工学体系にパラダイムシフトし」(東北大学の下村政嗣教授)、重要視される分野になった。「この分野での国際標準化に、日本の意見を反映させることが技術・事業戦略として重要になっていると考える関係者が増えている」と、産業技術総合研究所ナノシステム研究部門ナノテクノロジー戦略室の阿多誠文室長は説明する。

 バイオミメティクスの国際標準化の議論が国内で本格稼働を始めた理由は、バイオミメティクスの国際標準化を図るISO/TC266 Biomimetics第1回総会がドイツのベルリン市で2012年10月9日から2日間、開催されたためだ。ドイツのDIN(ドイツ規格協会)が2011年5月16日に、スイスのISO(国際標準化機構)にバイオミメティクスの国際標準化を議論するTC(技術委員会)の設置を提案したことを受けて、TC266 Biomimetics第1回総会が開催された。今回の総会は、ドイツのコンソーシアムであるBIOKONの主導の下に開催された。

 TC266 Biomimeticsは、“Secretariat”と呼ばれる幹事国にドイツがつき、“Participating Countries”と呼ばれるP-メンバーにドイツやフランス、英国などの欧州6カ国と、日本、中国、韓国のアジア3カ国の合計9カ国が参加した。米国はO-メンバーとしてのオブザーバー参加となった。

 TC266 Biomimetics第1回総会は、WG(ワーキンググループ)として3つを設置することなどを決めた。この3つのWGには、日本からは“Expert”と呼ばれる委員がそれぞれ参加する。例えば、産総研の阿多室長は、WG3のバイオミメティクスの最適化のExpertに就任した。

 今回の第1回総会では、日本は「WG4」としてバイオミメティクスのデータベースのWGを設置することを提案した(関連記事「北海道大、技術革新の着想が得られる発想支援型データベース開発に着手」)。

 国内の審議団体になったバイオミメティクス研究会は、2012年4月に高分子学会内に設置され、2012年7月の設立記念講演会を経て、2012年11月と12月にそれぞれ、バイオミメティクスの国際標準化がTC266 Biomimetics第1回総会の開催によって本格化した経緯を関係者などに説明する活動を始めた。同時に、次回のTC266 Biomimeticsに向けて、日本側の意見を各WGの場で発言するために、バイオミメティクス研究会としてさまざまな議論を活発化させた。

 第1回総会は議論する枠組みなどを定めたもので、実質的な議論はこれからになる。バイオミメティクス研究会では、日本企業が事業化を進める際のさまざななニーズなどの集約を図るもようだ。

 欧州は以前に、環境規制として2006年のRoHS指令など、その後はREACH規制、EuP指令などを設けて、欧州市場向けの製品に対応を求めてきた経緯を持っている。こうした環境規制などの視点からも、各WGでは日本側の意見を的確に伝えたいもようだ。