Peek氏(左)と林氏。イベントはTech-On!編集が後援。編集長(当時)の内田泰が司会を務めた
 林氏は、こうした仕組みがあることを受けて「面白いアイデアはかしこまっていては出てこないのでは」と、社内の雰囲気についても質問した。Peek氏は「創造性はリラックスした雰囲気でしか発揮できないと考えている」と答えた。Dyson氏は社員に「ネクタイをするな」と言ったことがある。これは脳に流れる血液を妨げないようにするためと、まじめに説いたという。同社の技術者は、ネクタイはもちろんスーツも着用しなくてよい。

斬新な技術を市場に出しやすく

 技術に加え製品デザインをウォッチしている林氏は、日本人デザイナーは斬新なアイデアを提示できる力があると見ている。展示会などで発表される「モックアップは斬新だ」(同氏)。一方、日本企業の品質管理基準が厳しく、顧客からのクレームを恐れるあまり、製品化を断念することがあるという。Peek氏は「リスクを取らない方が簡単だが、残念なこと」と応じた。経営者にリスクを犯す度胸がないと、奇抜なアイデアは埋もれたままだ。同社は、開発経験のなかったモーターを自ら開発するリスクを取って、10年かけて実用化した。積極的に新技術の開発を進めてきた結果、今では特許取得件数は英国でRolls-Royce社に次いで2位につけている。

 会場にいた技術者と思われる聴講者からは「面白いと思うアイデアを出すと社内で『それは儲かるのか』と問われて実現できないことがある。Dyson社で、そのようなことはないのか」との質問が出た。企画段階で将来に儲かるかどうかを技術者に聞く経営者が存在するのである。Peek氏によると、Dyson社では企画から製品化までを10段階として初期の2~3段階では、収益性を問うことはないという。このため「他社に比べて、開発の初期段階で芽を摘まれる恐れは少ない」(Peek氏)。組織の中で生まれた技術は、自然と世に出るものではないということだ。