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【インタビュー】1社に閉じ籠っていてはイノベーションは生まれない

米MIT Media Lab 所長 伊藤 穣一氏

浅川 直輝=日経コンピュータ
2012/09/13 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2011年6月27日号 、pp.79-81 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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 2011年4月25日に明らかになった、「デジタルガレージ共同創業者の伊藤穣一氏がMIT Media Labの4代目所長に就任」というニュースは、二つの意味で驚きをもって迎えられた。一つは、伊藤氏が研究者としての学位を持たない人物であること。もう一つは、同氏はベンチャー・キャピタリストとして米Flickr社や米Six Apart社、米Twitter社に投資する他、オープンソースやクリエイティブ・コモンズなどの活動に関わるなど、「インターネット文化の伝道者」として知られる人物であることだ。所長に就任することで、Media Labをどのように変えようとしているのか、日本の技術者はLabをどう活用できるのか。伊藤氏に聞いた。

(写真:栗原 克己)
(写真:栗原 克己)

─なぜ、Media Lab所長の就任要請を受け入れたのか。

 私にとって一番幸せなのは、面白い人たちと面白い話をすることだ。ベンチャー企業には、革新的でリスクを恐れない面白い人たちが集まる。だから、引かれた。クリエイティブ・コモンズなどのNPO活動も、そこに面白い人たちが集まってくるから楽しい。僕の人生の目的は、そんな面白い人たちと一緒に、社会に対してインパクトを与えることだ。

 Media Labを訪問してびっくりしたのが、ベンチャー企業と同じく面白い人たちが集まっていたことだ。教授や学生との話は、とても刺激的だった。

─Media Labの人々は精神的にはベンチャー企業に似通っていると。

 そう。ほとんど同じ。ベンチャー企業とは違う意味でリスクを恐れず、「とにかくモノを作ってみよう」というアジャイル(軽量開発)の文化もある。例えばAさんのロボット技術と、Bさんの感情認識技術と、CさんのAIアルゴリズムを使って教育用ロボットを作ってみようよ、といったプロジェクトがすぐに立ち上がる。ハードウエアにせよ、ソフトウエアにせよ、「モノを一緒に作る」という文化は、優れたコラボレーション(協調)を生み出しやすい。

 ベンチャー企業と明らかに違うのは、見据える時間軸だ。ベンチャー企業は5~6年くらい先のイノベーションを考えているが、Media Labはさらに長期の視点で世界の変化を見ようとしている。

─日本企業は、Media Labとどのような形で協調できるのか。

 これまでのMedia Labでは、ハードウエアの知的財産権をスポンサー企業であるメーカーにライセンスするのが協調のパターンだった。デンマークLEGO社の教育用ロボット製品「MINDSTORMS」や、米Amazon.com社の「Kindle」などに採用されたデジタルインクがいい例だ。

 私は、中長期的には、スポンサー企業がMedia Labとの協調を通じて「インスピレーション」や「つながり」を得られるようにしたいと考えている。

 かつてハードウエアは、携帯型音楽プレーヤーにせよゲーム機にせよ、1社が開発した知財でほぼ完結できた。それがパソコンの登場を機に、多くの企業の知財を組み合わせる手法が主流になった。将来は、協調の形態がもっとオープンになるだろう。

 例えば、スポンサー企業が「我々はこういうことをやっている」と言えば、Media Labの研究員は「中近東やアフリカに協調できそうな会社があるよ」と紹介できる。Media Labを「つながり」のためのプラットフォームとして活用してほしい。

─会社に閉じた知財よりも、会社同士の「つながり」が重要になると。

(写真:栗原 克己)
いとう・じょういち 通称Joi。デジタルガレージ 共同創業者、取締役。カルチュア・コンビニエンス・クラブ 社外取締役。米Creative Commons会長。アジア、中東での新規事業育成を手がけるシンガポールNeoteny Labs ジェネラル・パートナー。慶応大学大学院メディアデザイン研究科非常勤講師の他、FireFoxを開発する米Mozilla Foundationなどの非営利団体のボードメンバーも務める。エンジェル投資家として、シリコンバレー地域を中心に複数のインターネット事業への投資、事業育成にも携わる。

 そうだ。これまではコンバージェンス(融合)の時代だったが、終わりが見えつつある。テレビとファクス、電話機とパソコンといった融合は実現したが、あまり破壊的ではなかった。融合の過程で消滅した会社は幾つかあったが、たいていは製品ラインアップの統合というレベルで済んでいた。

 今は、融合を超えて「メディアはどうなるのか」とか「医療はどうなるのか」といった根本的な変化が起きている時代だ。その変化の中で自社をどう位置付け、誰と組み、何を考えねばならないかを模索する必要がある。そこに、Media Labと組む価値がある。

─Media Labはこれまで、米Google社や米Apple社など米西海岸の企業や、インターネット、ソーシャルそのものに関する研究とは縁遠かった印象がある。インターネット文化の伝道者として、Media Labをどのように改善したいか。

 活動をもっと外に開きたい。インターネットには「コミュニティー」と「オープン」の文化がある。この文化をMedia Labの遺伝子に組み込みたい。加えて、インターネットやソーシャル・ネットワークの研究員を5人ほど増やす計画だ。他の研究員とのコラボレーションで、インターネットに関する何十個ものプロジェクトが走りだすだろう。

 国際的なプレゼンスも、さらに高める。日本や中近東にMedia Labの事務所を設け、出版やイベントなどを展開したい。

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