日本で生まれた緊急地震速報が、間もなく海を渡る。台湾の中央気象局は、NECに4億2000万台湾ドル(約11億8000万円)で海底地震・津 波計の設計や設置を依頼した。NECは同システムを2011年7月に引き渡し、中央気象局は2011年10月ごろからサービスを開始する予定だ。約 2500人の死者・行方不明者が発生した1999年の921大地震以来初めて、台湾で本格的な速報システムが稼働することになる。

 海底地震・津波計「MACHO」は、台北市の東南に位置する宜蘭県頭城鎮から、さらに東南に約45km進んだ水深250m地点に配備された注A-1)。 収集したデータは、光ファイバを使って140Mビット/秒で送られる。今回台湾に設置されたシステムは、日本で設置済みの高機能型システムとよく似てい る。具体的には、海底ケーブルに直接センサ群を接続したインライン型より高コストながら、センサの追加が容易なノード型を採用している(図1)。この ため、今回のシステムは地震や津波を計測するだけでなく、CTD(塩分・水温・水深計)を備えることも可能になった。CTDは、海洋生物の生育環境を測る ために使われる。

注A-1) 宜蘭県頭城鎮と日本最西端の沖縄県・与那国島までの距離は100km少々である。

図1 実績があるハードウエアを転用
図1 実績があるハードウエアを転用
台湾に設置した海底地震・津波計「MACHO」の構成を示した(a)。ノードには最大四つのセンサ群を付けられる(二つは未使用、(b))。(c)は、センサ群1(手前)とセンサ群2(奥)の外観。各ハードウエアはJAMSTECが日本で設置したものとほぼ同様である(d)。

 中央気象局は、海底地震・津波計の発注先選定において、システムを故障せずに動作させた実績と、フルターンキーの提供を重視した。こうした点に強みを 持っていたNECが、2009年11月に受注を獲得した。「海外では案件限りのコンソーシアムが海底地震・津波計を設置することが一般的なので、継続して 総合的なハードウエアとサービスを提供できる企業がほとんどない」(NECネッツエスアイ ネットワークサービス事業本部 モバイル・海外ネットワークシステム事業部 海洋エンジニアリング部 担当部長の藤原法之氏)。

フルターンキー=実運用を除いた、すべての準備を請け負うこと。「発注者は鍵を回すだけ」という売り文句から生まれた言葉である。

 NECは今後、台湾を皮切りにインドネシアやチリといった地震多発地域に海底地震・津波計を売り込む考えだ。そのときには、これまで以上のコスト低減が 求められる。例えば、海底ケーブルを用いずにブイ(浮き)や重り、無線通信機を用いた「ブイ型」の地震・津波計は、コストが「測定地点当たり100万米ド ルほどと安い」(シンガポールNanyang Technological University,ProfessorのPan Tso-Chien(潘則建)氏)。ブイ型は故障率や測定精度、拡張性が海底ケーブルを用いたインライン型やノード型よりも劣るとはいえ、測定地点当たり のコストは台湾に設置したシステムの1/14で済む。これら低コスト手法の研究開発は、さらに重要となりそうだ。