かつてIDM(integrated device manufacturer)であることを強みとしていた国内半導体メーカー。それも今は昔。最近では、コスト削減のために、ファブライト化やファブレス化を推し進めている。当たり前だが、ファブレスになったからといって、それだけで成功が約束されるわけではない。成功には何が必要なのか。日本と米国のファブレス大手である、ザインエレクトロニクスと米Qualcomm, Inc.(クワルコムジャパン)それぞれの講演で、複数の成功への要件を聞くことができた。

 両社の講演は共に、「Fabless時代のDFMセミナー」(メンター・グラフィックス・ジャパンが2012年8月3日に東京で開催)で行われた。以下、それぞれの講演のポイントを紹介する。最初にザインエレクトロニクス。ディスプレイ周りの高速インタフェースLSIに強い同社は、国内ファブレス半導体メーカーの代表と言える存在である。しかし、昨年(2011年)末にはテレビ不況のあおりを受けて、東京駅前のビルから本社を移転せざるを得ない状況に追い込まれた(Tech-On!関連記事1)。

講演するザインの野上一孝氏 Tech\-On!が撮影。スクリーンはザインのスライド。
講演するザインの野上一孝氏
Tech-On!が撮影。スクリーンはザインのスライド。
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 ザインもいよいよダメかとの暗い雰囲気が漂っていたが、小回りの利くベンチャー企業らしく、テレビ依存からの脱却は早かった。2012年第1四半期(1-3月)の純損益は2億6400万円の黒字(同2)、2012年第2四半期(4-6月)は9800万円の黒字である(同3)。なお、1年前の2011年第1四半期は1億7500万円の赤字、2011年第2四半期は2億2500万円の赤字だった。同社は復権への道を歩み始めている。

量産をコントロールできることが重要

 そのザインから登壇したのは、野上一孝氏(取締役 社長室長)である。同氏からは、成功への条件を二つ聞くことができた(もちろん、この二つで必要十分なわけではないが・・・)。一つは製造(量産)のコントロールを他人(ヒト)任せにせずに、自ら行うこと。もう一つはファウンドリから選ばれるファブレス・メーカーになることである。

 前者は、「ファブレスと言えば、製品企画や設計にばかり目が行ってしまう」ことへの警鐘と言える。もちろん、製品企画や設計は重要である。しかし、前工程、組み立て、テストという量産のコントロールを自社で行わないと、ファブレスの利益の取り分が小さくなるとした。特に価格競争が激しい場合は、ファブレスの取り分が限りなく小さくなってしまう。

 量産のコントロールを行うためには、「ファブレス・メーカーといえども、生産や品質を管理できる体制を整えることが重要だ」(野上氏)。同氏によれば、そうした管理を行える人材を採用するのはかなり難しいという。実際、「ロジック設計者の採用ではあまり困らない。それに比べると、アナログ設計者の採用は難しい。しかし、もっと難しいのが、テスト・エンジニアの採用である。非常に流動性の低い専門職と言える」(同氏)。ザインは、量産をコントロールできる人材の確保に努力し続けてきたとする。

 後者の「ファウンドリから選ばれるファブレス・メーカーになる」ための条件を、野上氏は二つ示した。一つは、委託生産量が多いこと。しかし、これは、ベンチャーのファブレスには難しい。二つ目の条件は、プロセス改良を手伝うファブレスだとした。歩留り改善は、ファウンドリ、ファブレス双方の利益につながるからだ。

 実際、ザインはウエハー・テストの結果をフィードバックし、可能性のある不良原因を指摘している。また、必要に応じてデバイスのパラメータを測定したり、実験用のウエハーを流して条件出しを行うこともあるという。