Nippon Consulting社CEOの井内隆司氏。手にしているのは、同社がタイで発行している日系企業向けの情報誌。
Nippon Consulting社CEOの井内隆司氏。手にしているのは、同社がタイで発行している日系企業向けの情報誌。
[画像のクリックで拡大表示]

 「タイの日系メーカーは洪水による損失や事業展開の遅れを取り返そうと積極的に動いている」---タイで企業進出の事務手続きなどの現場対応などを手掛けるNippon Consulting社CEOの井内隆司氏が、2011年に発生した洪水後の製造業の復旧状況などについて語った。

 「洪水が起こったのは、ちょうどこれからタイ経済が大きく伸びようという離陸直前というタイミングだった」(同氏)。2011年その前に発生した東日本大震災の影響もあり、タイに進出している日系メーカーにとっては大きなダメージを被った年だったが、同氏によると、日系メーカーの多くが既に洪水前の状況を取り戻しており、洪水前以上に事業を伸ばそうとしているという。全面的に復旧し切っていないメーカーも急速に立ち直りつつあるようだ。

 特徴的なのは、洪水をきっかけに工場などを撤退した欧米の企業が目立つのに対し、日本企業はほとんどが撤退せずに現地工場の復旧に努めているということ。「欧米企業は同国での事業を急には回復できないと考えたようだ」(井内氏)。一方、日本企業は洪水による計画の遅れを挽回しようと復旧に取り組んだ。工場の稼働停止でレイオフになって地方の出身地に戻っていた従業員も戻ってきているという。ただし、人材供給が追いつかず一部で人手不足の状態に陥っているようだ。

 井内氏は、東南アジアでの事業展開において今後ますますタイの役割は大きくなるとみている。他国に比べ政府の後押しやインフラ整備が進んでいるためだ。「タイ政府はビジネス的な視点に優れている。輸出産業で生き残る戦略をきちんと描いており、外国企業の工場誘致を積極的に展開している」(井内氏)。

 タイでは、「BOI」(Board of Investment)と呼ぶ申請で外国企業による投資案件が認められると、法人税の減免や就労許可、ビザ取得の円滑化といったさまざまな恩恵が受けられる。東南アジアの拠点として工場などの進出が盛んなのはこのためである。インフラも整備されており、停電などの不安もあまりないという。さらに、高速道路網や港湾設備、空港などの整備計画も進行中。「昔のイメージとは異なり、ビジネスに困るようなことはない」(同氏)という。洪水についても、政府の対策整備と共に、各企業のリスク管理が進むとみている。