スマートメーターとHEMSコントローラを接続する「Bルート」
スマートメーターとHEMSコントローラを接続する「Bルート」
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Bルートの伝送メディアとして挙げられている三種類
Bルートの伝送メディアとして挙げられている三種類
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「ECHONET Lite over 920MHz ZigBee IP」として提案されている構成
「ECHONET Lite over 920MHz ZigBee IP」として提案されている構成
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 スマートメーターやHEMSコントローラの家庭への導入が見込まれる中、議論が活発化しているのが、そこで用いる通信仕様である。これまでは多数の候補が乱立していたが、経済産業省がHEMSネットワークの仕様に「ECHONET Lite」を推奨したことをきっかけに、ほかのネットワーク部分に関しても具体的な提案が増えてきた。

 2012年5月10日に、製品安全サービスなどを手掛けるテュフ ラインランド ジャパンが開催したセミナー「スマートエネルギーフォーラム」では、特に米国市場などで主流となっているZigBee Smart Energyと、日本の標準仕様となりつつあるECHONET Liteの関係を軸にした話題を、講演者が発表した。

 業界では、経済産業省の「スマートメーター制度検討会」などの議論を背景に、スマートメーターから家庭内に設置したHEMSコントローラをつなぐ通信路が「Bルート」と呼ばれている。そしてHEMSコントローラと各種家電機器を接続する部分を「HEMSネットワーク」と呼ぶ。このうち、経済産業省の「スマートハウス標準化検討会」は、BルートおよびHEMSネットワークのどちらも、上位層(OSI参照モデルの5層から上)の通信ミドルウエアにECHONET Liteを使うことを推奨している。また、ECHONET Liteの下層(ネットワーク層)には、IPを使うことを同じく推奨している。

 同様にスマートハウス標準化検討会は、Bルートの下位通信仕様として現時点で推奨されるものを、三つ挙げている。それは1)920MHz帯を使う特定小電力無線、2)無線LAN、そして3)電力線通信(PLC)である。
 
 スマートメーターにはこれらだけでなく、電力事業者の通信網と接続する通信機能も必要だ。つまり、スマートメーターから電力事業者側と、宅内通信向けという、複数の通信機能の実装が求められる。こうなると、スマートメーターは通信部分の実装コストが増し、価格低減が難しくなってしまう。

 そこで、これら各種のルートを、統一的な通信プロトコル・スタックで処理することを提案しているのがZigBeeの普及促進団体の日本支部である「ZigBee SIG-J」だ。現在、ECHONET Liteの推進団体であるエコーネットコンソーシアムと協議しながら、ECHONET Liteの下位層にZigBeeのプロトコル・スタックを置くアーキテクチャ「ECHONET Lite over 920MHz ZigBee IP」を策定中である。

 この提案では、スマートメーターと電力事業者の通信網(ここでは仮に“Aルート”と呼ぶ)およびBルート、さらにHEMSネットワークのいずれにおいても、920MHz帯の特定小電力無線を使うことを想定する。物理層には米IEEE802委員会が今年に入って標準化した低消費電力無線仕様「IEEE802.15.4g」を使い、MAC層には同802.15.4もしくは802.15.4eを使う。Aルートは長距離伝送能力が求められるが、920MHz帯が出力によっては1km以上の伝送距離を稼げることと、IEEE802.15.4準拠のマルチホップ接続機能を使うことで、電力事業者やガス事業者のネットワーク要求条件をクリアできるとみる。BルートおよびHEMSネットワークには、ECHONET LiteおよびZigBee IPを使う。

 このアーキテクチャの強みは、海外市場への展開が見込めることだ。米国市場では米NISTの旗振りのもと、HEMSネットワーク用の通信ミドルウエアには、ZigBee Smart Energy 2.0(SEP 2.0)という有力候補がある。このため、米国市場向けHEMS対応機器を開発するメーカーからは、「ECHONET Lite対応だけでは日本でしか売れなくなる」と危惧する声が出ていた。今回のZigBee SIG-Jの提案アーキテクチャでは、ミドルウエアにZigBee IPを使っていることで、上位にSEP 2.0を積むなどの親和性が高い。ECHONET LiteとSEP 2.0を両方積めば、日本および米国で販売できるHEMS機器を実現しやすくなるという提案だ。

 ZigBee SIG-J のアプリケーションWGリーダーである福永茂氏は、スマートエネルギーフォーラムの講演において、「まだエコーネットコンソーシアムと協議中であり、最終形態は決まっていない。うまくいけば2012年5月末までには、何らかのご報告ができるかもしれない」と、近々議論がまとまる可能性があることを示唆した。

 このほか、920MHz帯の特定小電力無線を使う以外にも、無線LANやPLCを使う提案もある。最近では電力線通信方式のG3-PLCがIEEE1901.2として標準化されたほか、電力事業者の間では電力線通信に対する根強い支持がある。一方の無線LANでも、サブ1GHz帯を活用して伝送距離を伸ばす「IEEE802.11ah」の策定が進んでおり、Wi-Fi Allianceが仕様策定を急いでいる。「一部ではっきりしてきた部分もあるが、まだまだ見えないところもある。早く全体像が決まらないとなかなか投資判断ができない」(ある伝送装置メーカーの担当者)という声も出ている。今後、電力事業者が利用するスマートメーターの基本仕様が確定すれば、これらの候補の中から、主要な通信仕様が絞り込まれていくことになりそうだ。