システムについて説明する東北大学 大学院環境科学研究科長の田路和幸氏
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システムの概要
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東北大学がこれまでシステムの研究に用いていた機器。実証試験では統合制御用の基板などをユニット化する予定
東北大学がこれまでシステムの研究に用いていた機器。実証試験では統合制御用の基板などをユニット化する予定
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 東北大学と東北経済産業局、仙台市ガス局、エボテック、北洲は2012年3月12日、「産学官の連携により災害に強い省エネシステムの実証実験」について発表会を開催した。戸建て住宅向けに通常時には家庭電力の5~6割を、非常時には照明や情報機器向けの電力を3日ほど確保できるエネルギー・システムを、200万円以下で実現できるとしている。今後「復興住宅向けに自治体などに提案を進めたい」(東北経済産業局)という。

 構成は828Wの京セラ製太陽電池と1.2kWhのソニー製蓄電システム、1kWのガス・エンジン式家庭用コジェネレーション・システム「エコウィル」(発電ユニット:ホンダ製、貯湯ユニット:ノーリツ製)を組み合わせ、東北大学が取りまとめた統合制御用ユニットと、エボテック製のHEMS(home management system)を備える。まずは地元の住宅メーカーである北洲の実証住宅にシステムを導入し、効果を検証する計画である。

 基本的なコンセプトは、家庭内において電力需要と熱需要が高い朝夕の電力をエコウィルで、昼間の電力を太陽電池で、深夜の電力を蓄電池で賄うというもの。すべての電力をこれらで賄えるわけではなく、家庭で利用する電力の約2割を太陽電池から、約4割をエコウィルから発電したものを利用する。その結果、家庭の購入電力を半分以下にできるとみている。

 蓄電池は太陽電池の不安定な出力変動を安定化することに主眼を置き、1.2kWhと必要最低限とした。そのため、蓄電池は「通常時には300Wh~1kWh程度の充電状態で利用する」(東北大学 大学院環境科学研究科長の田路和幸氏)とする。ただし、災害時や停電時などに系統電力が遮断された場合は、太陽電池やエコウィルの発電を利用する他、足りない場合は蓄電池に残った300Whも利用する。停電時などに切り替えの作業は必要なく、自律的に制御するのが特徴である。

 東日本大震災の際に、エコウィルや家庭用燃料電池「エネファーム」といった家庭用コジェネレーション・システムは系統電力が遮断されると自立運転ができなかった。今回のシステムでは、停電した場合でも蓄電システムがエコウィルの起動に必要な電力を供給し、自立運転することを可能にしている。

 さらに、系統電力とガスの両方の供給が停止する最悪の事態でも、蓄電システムの300Whを利用すれば、最低限の照明(40WのLED電球で50時間分)と携帯電話機の充電(約60回分)の利用が可能である。昼間は太陽電池の電力を利用することができるため、快晴であれば、2時間ほどで蓄電システムを300Wh程度まで充電できるとしている。

復興住宅の現実解に

 東日本大震災では「最低限の明かりと情報収集・発信のための携帯電話機の電力が非常に重要であることが分かった。こうした電力を何とか3日分ほど確保できれば、外部から何らかの支援が来ると考えている」(東北大学の田路氏)。

 今回のシステムは200万円以下を目指すとしており、このうち、828Wの太陽電池が20万円以下、エコウィルが定価80万円程度とのこと。ただし、ソニー製の蓄電システムの価格は現状ではサンプル供給のため未定で、「蓄電システムとHEMS、電源部品、統合制御用基板を合わせたシステムで100万円以下にできるとみている」(田路氏)とする。

 現在、政府は集中復興期間として2016年3月末までの5年間に集中的に予算を配分する復興計画を立てている。だが、期待を寄せているスマートハウスなどの構築には「技術的な問題とコストの面で5年以内に実現するのは現実的には難しい」(東北経済産業局)という。

 住宅メーカーや電機メーカーなどからスマートハウスの提案が出ているものの、「従来の住宅に比べて600万円程度も高い。実際の被災者は2重ローンなどに苦しんでおり、このコスト差は補助金などで埋められる金額ではない。今回のエネルギー・システムは200万円以下で構築できるため、現実解になり得る」(同局)とする。

 なお、今回は実証試験に利用するシステムは見学できなかったが、2012年3月19日に北洲の実証住宅において記者向けのシステム見学会を実施する予定である。