写真はソニーの液晶テレビに搭載されている高画質技術。筆者が撮影。
写真はソニーの液晶テレビに搭載されている高画質技術。筆者が撮影。
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 「ソニーのテレビ・ビジネスにとって2011年はタフ・イヤーでした」と言うのは、米国でテレビ・マーケティングを担当する石田武氏(米Sony Electronics社 チャネルマネジメントグループ・バイスプレジデント)だ。「しかし、その中で確実な手応えを得ることもできました」と、石田氏は続ける。

 3月に異変が起きた。いつもの年なら在庫処分で商戦は盛り上がるはずが、盛り上がらない。「テレビという旧来の製品より、タブレット端末などの新しい製品に消費者の興味が移った結果だと思います」(石田氏)。

 しかし、それではテレビに将来はない。「テレビは安くなるだけのものではなく、わくわくする楽しいものだと消費者に知ってもらいたい」という思いから、石田氏は特異な作戦に出た。

 「在庫を大幅に絞ったのです。ディーラーは品切れが心配だから在庫を持ちたいし、メーカーは売り上げが上がるから、在庫を押し込みたい。しかし、在庫が大量にあると、さばかなければならない状況になった時、安売りに走ります。つまり、在庫は安売りの元凶なのです。われわれは、その悪循環を何とか断ち切りたかった」(石田氏)。

 出荷数を絞ると同時に、ディーラー選別により、高級AV専門店に対して「XBR」という高級ラインを卸す作戦に出た。

 「われわれにとって非常に意義深いのは、高画質なテレビはきちんと説明すると売れるということです。米国では急速な価格低下で、画質に対する嗜好が弱まっているのではという声もありますが、きちんと掘り起こせば、高画質を求めるユーザーに必ずミートできることが分かりました」(石田氏)。

 米Sony Electronics社 President and Chief Operating OfficerのPhil Molyneux氏が、日本人記者向けのラウンドテーブルで述べた「いたずらにシェアを追うために低価格にしない。クオリティ・リテーリングに注力し、ソニー製品の持つバリューを正しくお客様に伝える手法を採りました」の具体的な事例が、これだ。

 もちろん、高画質製品だけではボリュームが足りず、ソニーは事業を継続していけない。しかし、高画質テレビを持たずにソニーが事業を継続していけないのも事実だ。ハイエンドはローエンドにイメージを与える。ローエンドはハイエンドに資金を与える。どちらもなければだめだ。