サブハーモニック・ミキサに利用したGFET
サブハーモニック・ミキサに利用したGFET
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 スウェーデンの大学Chalmers University of Technologyは2012年1月3日、グラフェン・トランジスタ(GFET)1個でマイクロ波向けのサブハーモニック・ミキサを作製したと発表した(発表資料)。GFETを利用したマイクロ波向けミキサは、2011年6月に米IBM社が先に開発しているが、入力信号と局部発振器(LO)の信号を和差分する単純な機能しか持たなかった(関連記事)。今回はより実用に近い設計で、しかもグラフェンの両極性(ambipolar性)という特徴を生かすことで既存のミキサに比べて、回路構造の大幅な単純化と小面積化を実現した。

 サブハーモニック・ミキサは、RF信号からベースバンド信号を直接出力する「ダイレクト・コンバージョン(直接変換)方式」、あるいは、低いIF(中間周波数)信号を出力する「低IF方式」によく用いられるミキサ回路の一つ。LOの周波数がfLO、RF信号の周波数がfRFの場合に、出力されるIF信号の周波数が|fRF-2fLO|となる。今回作製したサブハーモニック・ミキサは、fRFが2GHz、fLOが1.01GHzの場合に、|fRF-2fLO|=20MHzのIF信号を出力する。

 具体的な回路構成は非常にシンプルで、ソース電極を接地したGFETのゲート電極にLO信号を印加する。また、ドレイン電極に高域通過フィルタ(HPF)を通したRF信号を入力し、その反射波を、低域通過フィルタ(LPF)を介してIF信号として取り出す。一般にサブハーモニック・ミキサはトランジスタを多数用いるが、今回はGFET1個で実現した。このため、「従来のミキサに比べて大幅な小面積化を実現できる」(同大学)という。

 これがサブハーモニック・ミキサとして機能する仕組みはこうだ。まず、LO信号でゲート電極を変調することで、グラフェンの抵抗値、すなわちGFETのドレイン・ソース電極間抵抗(Rds)が周波数2fLOで変化する。これは、このGFETが両極性を持っていることから、LO信号の振幅の山と谷それぞれでRdsがピーク値を取るためである。

 ドレイン電極にはRF信号が入力されているため、Rdsの変化に対応した反射波が発生する。この反射波と元のRF信号との合成波の周波数成分は、fRF±2nfLOなどとなる。このうち、fRF-2fLOがIF信号として利用できる。

 グラフェンは、天然のグラファイトからいわゆる「機械的剥離法」で採取。これを、SOI基板上に載せてGFETを作製した。光の反射率の測定結果から、単層のグラフェンであることを確認したという。