電子情報通信学会の2011年ソサエティ大会が、JR北海道の札幌駅近くにある北海道大学で、2011年9月13日~16日に開催された。その中で基礎・境界ソサイエティは、ソサイエティ特別企画として「SoCを支える最新EDA技術」というタイトルのセッションを実施した。

 電子情報通信学会の大会は、国内学会のイベントとしては、ダントツで参加者数が多い。例年、ソサエティ大会では発表だけでも2000件近くがあり、春の総合大会は3000件に迫る勢いである。聴講のみの参加者数を含めると、相当の人数が集まることになり、開催を誘致しようとしている地方も多いと聞く。

 学会からの事前発表によれば、今回のソサエティ大会の参加者数は約8000人を見込むという。なお、今回の大会には、基礎・境界ソサイエティと通信ソサイエティ、エレクトロニクスソサイエティの3つが参画した。情報システムソサエティは参画せずに、情報処理学会と「FIT2011 第10回情報科学技技術フォーラム」を開催している(2011年9月7日~9日に函館大学と函館短期大学で開催)。

SoCを支える各種シミュレーション技術を解説

オーガナイザ兼座長を務めた、ルネサス エレクトロニクスの田中聡氏 筆者が撮影。
オーガナイザ兼座長を務めた、ルネサス エレクトロニクスの田中聡氏
筆者が撮影。
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 電子情報通信学会の大会では、一般の論文発表のセッションに加えて、さまざまな特別企画が実施される。今回の北海道大学におけるソサエティ大会では、基礎・境界ソサイエティがEDA関係の企画を2件、催した。そのうちの1件「SoCを支える最新EDA技術」(セッション番号AK-2)を以下で紹介する。

 この特別企画では、SoC設計を支えている、各種シミュレーション技術が最新動向を含めて解説された。オーガナイザ兼座長は、ルネサス エレクトロニクスの田中聡氏が務めた(写真)。講師は、東京大学VDECの准教授の池田誠氏、NECの中村祐一氏、半導体理工学研センター(STARC)の横溝剛一氏、日立製作所の大曽根靖夫氏、東京工業大学の助教の平野拓一氏の5名である。

プロトタイプが重要

 最初に、東大VDECの池田氏が登壇した。同氏からは、VDECにおける設計の現状に関する説明があった。VDECは大学のプロジェクト向けの設計サービスを行っている。昔はスカスカのLSIを開発していたが、現在では多少SoCらしくなってきたとのことである。

 設計をうまく行うには、各種プロトタイプを十分に行うことが重要だとする。論理的な問題だけではなく、メモリ、PLL、タイミング関係なども含めて、プロトタイプ上でしっかり検証する必要がある。特に、ブラック・ボックスのIPコアを利用する際や、電源ノイズなどはしっかりとしたプロトタイプ上で検討、検証が欠かせないとし、プロトタイプとその上でのシミュレーションの重要性を訴えた。

 同氏の講演の最後では、VDECにおける各ツールの利用状況についての説明があった。特定の学会の投稿締め切りとツールの利用状況との間には強い相関関係があるかと予想されたが、実際はそうでもない。まんべんなく利用されているとのことだった。「今後は、ツール・チェーンをよく理解した学生を育成すべきだ」と述べて、講演を締めくくった。

高速な機能シミュレーションが必要

 続いて登壇したNECの中村氏は、現在のSoC開発プロジェクトにおける設計と検証の比率を説明した。同氏によれば、設計に比べて検証の方が、はるかに工数が大きい。また、ソフトウエアまで含めた検証が必要であることなどから、PC上のRTLのソフトウエア・シミュレーションよりも高速な機能シミュレーションが必要であるとした。

 そして、SystemCなどによる抽象度向上や、アクセラレーション・エミュレーションなどを実行するハードウエアの導入による高速化、アサーションによるカバレッジ向上、形式検証などの各種手法を解説し、その長所や短所などを指摘した。また、旧NECエレクトロニクスで用いられていた、FPGAを使ったプロトタイピング手法に関しても触れた(Tech-On!関連記事)。