エレクトロニクス実装学会(JIEP) 電磁特性技術委員会は,毎年恒例のサマーセミナーを,2011年8月30日に東京の芝浦工業大学の豊洲キャンパスで開催した。今年のテーマは,チップ-パッケージ-ボードの協調設計だった。講師は,このテーマらしく,チップ,パッケージ,ボード,機器,など,さまざまな立場から登壇した。各講師がそれぞれの立場で,サマーセミナー全体のタイトルにある「低コストで高性能なシステムの実現」のために,重要な事項や考え方を語った。

 最初に挨拶に立った,電磁特性技術委員会の委員長を務める王建青氏(名古屋工業大学 大学院 教授)によれば,昨年のサマーセミナーで要望の大きかったチップ-パッケージ-ボードの協調設計に,今年は講演を集中した。また,十分な質疑応答ができるように,件数を減らして1件当たりの時間を延ばしたことや,学会のWebページでは紹介がなかったパネル討論会を最後に追加したことなどの説明があった。

周波数特性を持ったターゲット・インピーダンス

図1●チップのキャパシタンス成分でボードの電源インピーダンスの反共振点が移動 右端は須藤俊夫氏。Tech\-On!が撮影。スライドは芝浦工大のデータ。
図1●チップのキャパシタンス成分でボードの電源インピーダンスの反共振点が移動
右端は須藤俊夫氏。Tech-On!が撮影。スライドは芝浦工大のデータ。
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図2●周波数特性を持ったターゲット・インピーダンス「Ztar」の例 ボードの電源インピーダンスがZtarの下端を超えると,波形が乱れる。スライドは芝浦工大のデータ。
図2●周波数特性を持ったターゲット・インピーダンス「Ztar」の例
ボードの電源インピーダンスがZtarの下端を超えると,波形が乱れる。スライドは芝浦工大のデータ。
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 講師のトップ・バッターは,芝浦工業大学 電子工学科 教授の須藤俊夫氏である。同氏は,協調設計の実現で解析すべき,SI(signal integrity),PI(power integrity),EMI(electro-magnetic interference)の定義やそれらの関係を説明し,PI解析において,チップのキャパシタ成分を考慮に入れる重要性を訴えた。同氏によれば,かつて,ボード設計などの実装サイドでは,チップのキャパシタンス成分の情報が入手できないために,それはないものとして,PI解析などを行ってきたという。

 しかし,最近では,民生機器でもデジタル化によって動作周波数が上がり,例えば,ボードの電源インピーダンスの解析で,チップのキャパシタンス成分は無視できない存在になっている。同氏は,「チップのキャパシタンス成分(オンチップ容量)の変化によって,チップの電源端から見たボードの電源インピーダンスの反共振点が移動する」という内容のスライドを見せて,その重要性を示した(図1)。

 ボードの電源設計では,ターゲット・インピーダンスと呼ばれる目標値を設け,それに向けてボードの電源インピーダンスを調整する。須藤氏によれば,これまでのターゲット・インピーダンスはマージンが大きく,しかも全周波数に亘って(わたって)同一だった。同氏は,今回の講演で,ターゲット・インピーダンスにも周波数を持たせるべきだとの提案を行った。

 講演では,DDR3型DRAMを搭載したボードの電源インピーダンスの周波数特性を事例として見せた。この周波数特性は,回路シミュレータを使って計算されているが,その際の入力波形は,非同期のPRBS(pseudo random bit sequence)が現実に近く,お薦めだと,同氏は言う。ターゲット・インピーダンスは周波数特性を持つが,その下端を超えないように,対象のボードの電源インピーダンスを調整していくのは,これまでと同様である(図2)。