上海近郊、揚子江沿岸に位置する江蘇省常熟市にある江蘇省常熟東南経済開発区(以下東南開発区)が、名古屋で企業誘致セミナーを開催した(図1)。2010年4月に続いて2年連続で、自動車関連産業が集積する名古屋で誘致セミナーを開催したことになり、中国における次世代自動車産業の集積地の座を目指す同開発区の意欲を垣間見ることができる。

図1 常熟市人民政府市長の恵建林氏

 2010年11月には、トヨタ自動車が、同開発区内に「トヨタ自動車研究開発センター(中国):Toyota Motor Engineering & Manufacturing (China) Co., Ltd. (TMEC)」を、同社の中国内での研究開発拠点としては初めて独資で設立した。テストコースを持ち、最終的には約1000名の人員を抱え中国市場に合致した自動車を生み出す、本格的な研究開発拠点になる。これによって、にわかに、同開発区に注目が集まっている。

 自動車産業では、部品や材料、工作機械などピラミッド型の業界構造を構成する様々な企業が効率良く動く体制が欠かせない。今回のセミナーでは、同開発区内に、TMECを核にした広い裾野を持った次世代自動車産業を戦略的に育成しようとしていることを印象づけた。このことは、セミナーの後援に、昨年に引き続き後援している日本の3大メガバンクに加えて、名古屋銀行や十六銀行など地方銀行が新たに加わり、自動車産業を支える中小企業の誘致にも力を入れている様子をアピールしていることからも伺うことができる。

環境保全と経済成長のバランスを取った発展戦略

 セミナーでは、まず常熟市人民政府市長の恵建林氏が、環境保全と経済成長のバランスを重視する同市の発展戦略を紹介した(図2)。中国で2011年に始まった「第12次5カ年計画(12.5計画)」では、材料・部品、製造装置から組み立てまで裾野の広い産業構造を確立すること、環境問題など継続的経済成長に向けて避けて通れない問題と向き合うことが、ハッキリと打ち出されている。常熟市の発展戦略もこうした指針に沿ったものであり、「進出する日本企業に最良のビジネス環境と生活環境を提供することを約束する」(恵氏)とした。

図2 名古屋で開催された江蘇省常熟東南経済開発区の企業誘致セミナーの様子
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 次に、中共常熟市委員会常務委員 常熟東南経済開発区管理委員会主任の朱立凡氏が同開発区に日本企業が進出するメリットを解説した。朱氏は「既に日本企業が200社以上進出している。市内の企業間はもとより上海経済圏の周辺都市にある企業と活発に交流することによって、良好な事業ができている」とした。

大企業から中小企業まで着々と集積する日本企業

 そして、同開発区に進出済みの日本企業3社から、同開発区に進出した理由や実際に進出してみてわかったメリットを解説する講演があった。

 最初に登壇したトヨタ自動車研究開発センター(中国)総経理の竹内俊作氏は、「揚子江デルタ地帯は中国の自動車部品メーカーの6割、金型設備メーカーの9割が集中する重要な場所である。東南開発区は、その揚子江デルタ地帯のほぼ中央に位置する。しかも、中国全土を東西および南北につなぐ2つの高速道路の交差点に当たる部品物流の要である。そして常熟港は、外航船舶と揚子江内の外航船舶が着岸できる常熟港があった」と、東南開発区への進出を決めた最大の理由である地の利を説明した。そして、実際に進出してみて、「独資での進出ということで、事前には、申請や工場建設などに伴う様々な苦難を予想していた。しかし、周辺の関連部省との調整など、開発区はもとより、常熟市全体で多大な協力が得られている」と同開発区と同市の支援体制の質の高さを評価した。

 次に登壇した三菱電機自動車機器事業本部副本部長の原興平氏は、「自然環境と計画的な発展を調和させる常熟市の発展指針は、現在当社が目指している事業指針と一致している。こうした仕事の環境と生活の環境の両立は、現地の従業員を地元指向にして、企業への定着率を高める効果もあるという。これは、人材をジックリと育てたいと考える日本企業にとって得難いことだ」とした。

 3番目に、半導体製造装置などに用いる精密な鋳物部品を製造する鍋屋バイテック代表取締役社長の金田光夫氏が、中小企業の視点から同開発区に進出するメリットを説明した。同社は、海外に100%子会社を設立するのは初めてだったが、同開発区の支援で現在順調に工場を建設できているという。そして「中小企業が海外で事業を行っていくためには、操業を支えるパートナ企業の存在が欠かせない。近隣には、機械加工の会社や表面処理の会社など数多くの関連企業が集まっているため、円滑な操業が可能だ」とした。