各国のスマートシティ関連プロジェクトに積極的に関わる企業の一社が独シーメンスだ。提供する商品は、エネルギー関連製品から自動車関連、LED照明など多岐にわたる。CSR(企業の社会的責任)の一環で環境経営にも注力する。独本社のCSO(チーフ・サスティナビリティ・オフィサー)で、同社のサプライチェーン・マネジメントを束ねるバーバラ・クックス取締役に、震災後のサプライチェーンの状況などを聞いた。(聞き手は、志度昌宏=日経BPクリーンテック研究所)

――2011年3月の東日本大震災により日本企業が被災したことでサプライチェーンが乱れ、全世界に影響を与えた。シーメンスの場合、どうだったか。

タイトル
バーバラ・クックス
独シーメンス
取締役 サプライチェーン・マネジメント・ヘッド兼CSO

 当社の場合も、日本のパートナ企業が被災したものの、当社のサプライチェーンにおいては、製品や顧客に対しては全く問題がなかった。パートナ各社の忍耐と不屈の精神のたまものだ。今回来日したのは、パートナ各社に直接会って、感謝の気持ちを伝えたかったからだ。

 困難な時期ではあるが、各社が真のパートナシップを持っていてくれることを改めて確認できたし、当社との対話がより強力になるなど、シーメンスとパートナ各社の関係は、今までに増して緊密になった。これからの成長機会についても確認できた。

――シーメンスのサプライチェーンにおいて問題が出なかった理由は何か。

 パートナ各社の精神力によるところが大きいが、加えて長年の協力関係が確立できていたこと、震災後もミーティングを何度も繰り返してきたことがある。

 サスティナビリティ(事業継続性)は短期間に実現できるものではない。シーメンスは、1861年に電信機を江戸幕府に献納して以来、日本で事業展開するなど長期的な関係を気付いてきた。こうした前提がサプライチェーンを強固にする。

 もっとも、精神力だけでは不十分である。精神に最良のテクノロジを組み合わせることが重要だ。例えば、当社製品は、電力の発電・送配電からビル管理、モビリティ、照明など多岐にわたるが、それらを実現しているテクノロジによって、CO2排出量を30%削減できる。これは、企業経営上、強力な武器になる。

 実際、シーメンスは2010年に、グリーン・テクノロジ分野で280億ユーロを売り上げ、顧客のCO2排出量を合計約270億トンを削減した。これは日本の総排出量の4分の1に当たる。同分野の売上高は、2014年度に400億ユーロ以上に伸ばしたい考えだ。

――サスティナビリティを考えるうえで、最も重要なことは。

 リソースを最大限に活用しながら、「People(人)」「Planet(地球)」「Profit(利益)」の三つの“P”をバランスさせることだ。長年成功している企業は、社員のケアと、地球のケア、株式のケアのバランスが取れている。それは簡単なことではないが、企業にとって必ずバランスさせなければならない。

 世界の人口は現時点で約70億人であり、すでに地球1.5個分の資源を使っている。これが2050年までに90億人の超えると予測されており、現状と変わらなければ地球2個分の資源が必要になる。必要な資源の量を減らすために必要になるのが、先述したようなテクノロジだ。

――サプライチェーンにおけるサスティナビリティを高める仕組みなどはあるか。

 繰り返すが、まず重要なことは緊密な関係が築けているかどうかだ。加えて当社では、「Energy Efficiency Program(EEP)」と呼ぶ方法論を利用している。

 EEPは、カーボンフットプリント(温室効果ガス排出量)の削減に向けて、自社開発したもので、エネルギー使用量の分析や、改善点の発見、見つけた点をテクノロジを使いながら改善するまでを支援する。90以上の工場に導入しており、パートナ企業にも提供している。

 パートナ企業それぞれが独自にカーボンフットプリントの削減などには取り組んでおり、成果を挙げている。だがEEPを使うことで、さらなる成果に結び付き始めてもいる。

 さらに、インターネット上で自己評価できる仕組みも開発・提供している。自社データを入力すれば、他社とのベンチマークが可能になる。日本でも間もなく導入する計画だ。

――ところで、「グリーンシティ・インデックス」と名付けた都市の指標作りにも取り組んでいる。その目的は。

タイトル

 グリーンシティ・インデックスは、都市のサスティナビリティを比較するために作成した。「エネルギー供給およびCO2」「ビルおよび土地活用」「輸送」「ごみ処理」「水」「公衆衛生」「大気環境」「環境ガバナンス」の8カテゴリから都市の環境性能を調査する。正確性を期すために調査は、専門機関である英エコノミスト・インテリジェンス・ユニットに依頼した。

 2009年に「ヨーロッパ・グリーンシティ・インデックス」と、2010年に「ラテンアメリカ・グリーンシティ・インデックス」を発表したのに続き、2011年2月には「アジア・グリーンシティ・インデックス」を発表した。アジアで最も環境にやさしい都市はシンガポールだったが、日本の東京、横浜、大阪の3都市も全カテゴリで高い評価を得ている。

 しかし、重要なのはランキングではなく、都市のサスティナビリティを高めるための改善点を見出すことにある。例えば、環境ガバナンスのカテゴリでナンバー1でも、輸送カテゴリではナンバー1ではないのならば、他の方法を探す必要があるし、都市間で学び合うべきだ。グリーンシティ・インデックスは、そのための土台になる。

 環境における都市の役割は、人口とCO2排出量の問題から決して小さくはない。シーメンスでは数年前に、都市化、高齢化、気候変動、グローバル化の四つがメガトレンドだと判断し、そのためのソリューション提供に事業の舵を切っている。

――スマートシティなど都市を対象にしたビジネスは顧客の顔が見えづらい。

 見えづらいのではなく、複雑化・多層化しているのだ。そのため、今日のテクノロジで何ができるのかを明確に示すようにしているし、自治体などへの情報発信にも努めている。シーメンスとしては幅広いソリューションを提供できるが、都市の状況は様々であり、何が求められているのかを見極めなければならない。

 そうしたこともあり、この10月1日には4番目のセクターとなる「インフラストラクチャー&シティ」を設立し、業務を開始する。本セクターには、モビリティ、ビル管理、配電といった事業を配置する予定だ。