いつでも好きな場所に行ける快適な移動手段として発展を遂げてきたクルマ。しかし今回の大震災では、クルマを非常用の発電装置や蓄電装置として活用する事例が相次いだ。クルマが新たな「電源」として、将来の社会インフラに組み込まれる可能性はあるのか。エネルギー源としてのクルマについて全3回で考察する本連載の第2回(今回)では、自動車メーカーの試みについてお伝えする(第1回はこちら)。

 大容量の駆動用蓄電池(バッテリー)を搭載するハイブリッド車(HEV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(EV)が将来的に普及したとき、それらをつなぎ合わせれば巨大な蓄電装置として活用できるのではないか――。クルマと家、クルマと電力網を双方向でつなぎ、電力をやり取りする「V2H(Vehicle to Home)」「V2G(Vehicle to Grid)」と呼ぶ構想について、活発な議論が巻き起こっている。

 もともとは、米国で次世代電力網である「スマートグリッド」を構築する際に急浮上してきた話である。PHEVやEVが普及した場合、ユーザーが帰宅した後の夜間などに一斉に充電を始める可能性が高い。米国では、電力網が老朽化しているところも多く、一斉充電に備えるには電柱にある変圧器の増設など非常にコストの掛かる対策が必要になるとされている。

 このコストを抑える方法として、車両への一斉充電ができるだけ起こらないように管理・制御することで、電力網に負担が掛からないようにする技術が検討され始めた。しかし、せっかく充電を管理するのなら、電力網の電力が足りない場合や、発電量が大きく変動する風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーの電力の平準化に対して、車両のバッテリーを活用できないかという発想が、スマートグリッドの盛り上がりとともに生じたわけである。

自動車メーカーが積極的に

 こうした構想は、電動車両の普及を目指す欧州や中国にも飛び火して世界的に活発な議論が繰り広げられている。ところが、残念ながら東日本大震災前の日本では「日本の電力網の品質は高い。だから電動車両から電力供給を受ける必要性はない」との立場を電力会社は取り続けていた。自動車メーカー側も当初は、走行用途以外に車両のバッテリーから電力を供給した場合に起こる電池の劣化などについて、「誰がバッテリーの品質保証を担保するのか」など課題が大きいとの理由から、積極的な関与はしてこなかった。

 ただ、米・欧・中での盛り上がりを受け、自動車メーカーもここ1~2年で打って変わったように積極的な姿勢になっている。車両からの電力供給に関する権限を、むしろ自動車メーカー側が握るべきとの認識に至ったことがその理由のようだ。日本でもここ最近、経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム実証地域」というプロジェクトの下でトヨタ自動車や日産自動車が実証試験を開始しようとしている。

 具体的には、トヨタ自動車は愛知県豊田市、日産自動車は神奈川県横浜市で実証試験を始めつつある。例えば、トヨタ自動車は、蓄電池付き住宅を一般消費者に向けて実際に70戸販売し、充放電可能なバッテリーを搭載したPHEVやEVを各戸に貸与し、データを収集して検証する計画である。

 トヨタ自動車の試みの特徴は、「クルマと家」のセットを最小単位として考え、まずはV2Hを可能にするシステムの構築を目指している点である。しかも、同社は家との連携を強化するために、住宅部門の強化に動いている。2010年10月には、トヨタ自動車の住宅事業部をトヨタホームに統合し、トヨタホームに対してデンソーやアイシン精機、豊田自動織機などトヨタ・グループ9社が新たに出資している。

トヨタ自動車は、充放電可能な蓄電池を搭載した電動車両と蓄電池付き住宅との統合制御を目指している。図は、日経エレクトロニクスの2010年11月1日号 特集「家から始まる蓄エネ社会」から抜粋。