いつでも好きな場所に行ける快適な移動手段として発展を遂げてきたクルマ。しかし今回の大震災では、クルマを非常時に発電装置や蓄電装置として活用する事例が相次いだ。クルマが新たな「電源」として、将来の社会インフラに組み込まれる可能性はあるのか。本連載では、エネルギー源としてのクルマを全3回に分けて考察していく。

 2011年3月11日の東日本大震災によって、東北から関東にかけての太平洋沿岸地域は大きな被害を受けた。東北地域では大規模な停電が発生し、津波の被害を受けなかった地域においても、電力インフラの復旧に1週間程度を要したケースもあった。電力インフラは、ほかのライフラインに比べて「比較的復旧が早い」と言われていたにもかかわらずである。

 その間、電気がない生活は被災地の人々にさまざまな苦難をもたらした。例えば、携帯電話である。

 震災で固定電話網が壊滅し、頼み綱の携帯電話網も地震後はでまったく通話できない状況が続いた。さらに基地局は通常、短時間の停電に備えて蓄電装置を備えているが、震災で電源を喪失して数時間を経過すると、多くの基地局は蓄電装置の電気も切れて動作を停止した。加えて、自家発電機や電源車を用いて何とか稼働していた基地局はあっても、停電した家庭では携帯電話機が充電できず、安否連絡が取れない状態に陥った。  まさか電力に依存していないと思っていた分野にも、停電は影響を及ぼした。まだ寒さが厳しかった東北地方では、暖房が欠かせない。だが、灯油はあるのに暖房を使えなかった世帯が相次いだのだ。理由は、灯油式ファンヒーターを暖房器具として利用していたためである。灯油式ファンヒーターは、起動やファンを回すために電力が不可欠。東北地方全体でわずか20k~30kW程度の電力がないばかりに、多くの人が寒さをしのげなかったのである。

 こうした中で、クルマが非常に役立ったという声は多い。移動や輸送など、クルマの本来の機能で大活躍したのは言うまでもないが、車載のラジオやテレビでニュースを視聴したり、クルマの中で暖を取ったりと、クルマに装備された付加機能が大きく役立ったようだ。これらに加えて、「非常電源として役立った」とする人が実は多い。特に、自動車のシガーソケットを使って携帯電話機を充電できたとする。