地域医療福祉情報連携協議会 会長で、東京医科歯科大学大学院 疾患生命科学研究部 教授の田中博氏
地域医療福祉情報連携協議会 会長で、東京医科歯科大学大学院 疾患生命科学研究部 教授の田中博氏
[画像のクリックで拡大表示]
岩手県立大船渡病院 副院長の小笠原敏浩氏
岩手県立大船渡病院 副院長の小笠原敏浩氏
[画像のクリックで拡大表示]
講演プログラム終了後に実施されたパネル・ディスカッションの様子
講演プログラム終了後に実施されたパネル・ディスカッションの様子
[画像のクリックで拡大表示]

 地域医療福祉情報連携協議会は2011年7月21日、「震災復興に、地域医療ITは何ができるのか?」と題するシンポジウムを東京都内で開催した。被災地の病院関係者も登壇し、被災現場からの視点を提示するなど、さまざまな議論が交わされた。

 まず初めに、地域医療福祉情報連携協議会 会長で、東京医科歯科大学大学院 疾患生命科学研究部 教授の田中博氏が登壇した。「東日本大震災の復興後の医療IT体制は如何にあるべきか」と題した講演では、基本概念として、地域包括ケアと、それを支える情報連携体制の推進が必要だと提言した。

 最優先課題として、沿岸部に位置する病院や診療所の診療情報のデジタル化、ネットワーク化を絶対的復興条件にすべきとした上で、「災害に強靭な」(田中氏)情報連携体制を敷く必要があるとした。そのために、診療情報のバックアップ機能を補強することや、中核病院に対する衛星通信回線の配置などが求められると訴えた。

 また、情報連携体制については、町村域、医療圏、全県域といった各圏域のニーズと実現課題に合わせたものを整備すべきだと指摘する。具体的には、町村域では慢性期患者や高齢者を中心した日常ケア情報の連携、医療圏では中核病院と診療所の連携、全県域では基幹病院と中核病院の連携や遠隔医療の連携など、それぞれ異なる階層の情報連携システムが必要になると提言した。

「妊婦情報が失われずに済んだ」

 続いて、岩手医科大学 学長の小川彰氏が「ITを核とした『いわて被災地過疎地型新地域医療モデル』の確立」と題して講演した。同氏はまず、岩手県の医療の特殊性として「医師の移動に膨大な時間が掛かる上、(’移動しても)患者数が多いわけではない」とし、面積が広く過疎地域が多い同県特有の事情を説明した。そのため、効率の良い高度医療を提供するには、「大学病院と仮設診療所を結んだ遠隔医療の導入」(同氏)が必要であると指摘した。

 実際、2011年6月にまとめられた「岩手県復興基本計画(案)」の項目には、「遠隔医療」や「拠点病院の電力等ライフラインの整備・充実」などが含まれていることを示した上で、小川氏は、遠隔医療システムや人件費に対する国の資金援助を強く訴えた。

 次に登壇したのは、岩手県立大船渡病院 副院長の小笠原敏浩氏。「震災に強い地域連携型周産期医療情報ネットワークシステム-岩手県周産期医療情報ネットワークシステム“いーはとーぶ”の奇蹟」と題して講演した。いーはとーぶは、県立大船渡病院を軸に周辺市町村と妊婦・胎児情報を共有し、母体搬送に利用するためのネットワーク・システムである。

 東日本大震災によって、津波被害を被った陸前高田市などの妊婦情報(市役所で保管していた紙ベースの情報)は一瞬で失われたという。しかし、いーはとーぶのデータ・サーバーは盛岡市に存在していたため、同システムに入力してきた妊婦情報は残っていた。これにより、震災後の妊婦の保健指導にもデータを活用できたという経緯などを、小笠原氏は説明した。

「震災後の気仙沼市は日本の2055年モデル」

 続いて、気仙沼市立病院 脳神経外科科長 宮城県災害医療コーディネーターの成田徳雄氏が、「Network Centric 災害医療における情報管理の重要性-災害医療コーディネーターの立場から-」と題して講演した。

 その中で成田氏は、「災害後の気仙沼市は日本の2055年モデルである」と指摘した。すなわち、被災および域外への退避によって、特に生産人口が減少し、被災前に約30%だった同市の高齢化率が一気に高まっているとする。この高齢化率が、日本の2055年の平均の高齢化率に相当するという。そこで成田氏は、「今後の気仙沼での医療体制は、将来の日本医療の先行モデルとしての検討が必要である」(同氏)と指摘した。

 次に、「震災に医療ITは何ができたのか?」と題して石巻赤十字病院 情報システム課・放射線技術課の千葉美洋氏が登壇した。同病院では、大地震に備えた構造と設備を備えていたことで、電子カルテやオーダーリング・システム、PACSなどの院内システムが停止せずに済んだという。このため、職員の混乱も最小限に、多数の患者に対応することができたという。

「医農連携」という視点も

 続いて講演したのは、慶応義塾大学 環境情報学部 准教授で東日本大震災復興構想会議検討部会委員の神成淳司氏。「東日本大震災を踏まえて情報技術が果たすべき役割」と題した講演において、被災地域の高齢化率が高いことを踏まえ、中長期的な発展にはどのようなことを考える必要があるだろうかと問題提起した。

 その一つとして神成氏は、「第1次産業と連携した地域モデルの構築」(同氏)を提言した。高齢者の孤立防止や健康増進に加え、地域産業の復興という視点からも、農業をなどの第1次産業中心とした地域モデルを構築すべきと指摘した。農業が盛んな長野県の寿命が長いことを引き合いに出し、「医農連携」という表現も神成氏は提示した。

 プログラムの最後に、「平時から災害時まで使える患者視線の情報システム」と題して、岐阜大学大学院 医学系研究科 救急・災害医学教授の小倉真治氏が登壇した。同氏が開発した救急情報医療システム「GEMITS」が、災害時の救急医療から、病院間の情報連携、そして介護情報との連携まで、幅広い側面で活用できるシステムであることを示した。