盗撮防止ユニットの構造の概要。ハーフミラーを2枚使い、上下から赤外線を照射している。
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論文を表示した17型ディスプレイの前に、盗撮防止ユニットを設置した例。赤外線はオフ状態である。
論文を表示した17型ディスプレイの前に、盗撮防止ユニットを設置した例。赤外線はオフ状態である。
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赤外線をオンにした場合。肉眼では変化がないが、撮影した映像は紫色に写り込んだ赤外線でほぼ覆われ、元の映像が分からなくなる。
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ディスプレイの代わりに、ヨットの模型を盗撮防止ユニットの後ろに置いた場合。
ディスプレイの代わりに、ヨットの模型を盗撮防止ユニットの後ろに置いた場合。
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上の例で赤外線をオンにすると、ヨットの形は分かるものの、肉眼で見た映像とはまったく違う映像が写る。
上の例で赤外線をオンにすると、ヨットの形は分かるものの、肉眼で見た映像とはまったく違う映像が写る。
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盗撮防止ユニットを斜め横から見た例。
盗撮防止ユニットを斜め横から見た例。
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赤外線照射ユニット。今回は、オプトデバイスのLEDを利用したという。
赤外線照射ユニット。今回は、オプトデバイスのLEDを利用したという。
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盗撮防止ユニットに装着された赤外線照射ユニット。
盗撮防止ユニットに装着された赤外線照射ユニット。
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 国立情報学研究所 准教授の越前功氏は、ディスプレイに表示された映像や企業の開発品の盗撮を防ぐ技術を開発したと発表した。人の視覚で検知できない近赤外線を映像などに重畳する技術で、携帯電話機や小型のデジタルカメラでの盗撮を防げるという。

 越前氏が開発したのは、既存のディスプレイ、あるいは機密情報を含む開発品などの前に設置して映像の著作権や開発品の機密情報を守る「盗撮防止ユニット」である。同ユニットは、赤外線照射ユニットからの赤外線をハーフミラーを使って映像に近赤外線を重畳する機能を備える。

 これまでも映像の盗撮とネットでの無許可配布を抑制する技術として、電子透かし技術があった。しかし、「電子透かし技術では盗撮を直接防ぐことはできず、誰が盗撮したのかも特定できない」(越前氏)など、いくつか課題があった。

 一方、今回の技術を使うと、盗撮自体が出来なくなる。これは、近赤外線を重畳することで、肉眼では変化がない映像をデジタルカメラなどで撮影すると、近赤外線が強く写りこんで本来の映像がほとんど分からなくなるためだ。

 開発した装置では、ピーク波長が870nmの赤外線LEDをアレイ状に並べた照射ユニットとハーフミラーを用いて、映像などに近赤外線を重畳した。

赤外線カット・フィルタを使ってもダメ

 これだけでは、赤外線カット・フィルタを装着したカメラを使われてしまうと盗撮を防げないという疑問がわく。越前氏は、「赤外線カット・フィルタの赤外線を反射するという性質を利用し、フィルタを使っているかどうかをリアルタイムに判別する仕組みも併せて開発した」とする。フィルタを使っていることが分かるため、その場で盗撮行為を止められるという。
 
 具体的には、近赤外線の照射ユニットの近くに赤外線カメラを装着し、反射されてきた赤外線を検知する。赤外線照射ユニット自体の赤外線の写り込みや、太陽光や室内の反射物などからの赤外線の入力を検知しないよう、バックグラウンドの映像データとの差分を常に取り、しかも動きのない一定の広がりを持った赤外光だけを検知するアルゴリズムを開発したという。

 ただし、弱点もある。透過波長域が人間の視覚とほぼ重なる赤外線カット・フィルタをレンズ内部に組み込んである場合は、反射される赤外線が弱く、うまく検知できないことがある。このため、やや高級な一眼レフ・タイプのカメラでは、盗撮を防げない場合があるという。また、銀塩フィルムを使うカメラを使うとどうなるかはまだ検証していない。

 これらの件に対しては、「盗撮する人はケータイか小型のデジカメでこっそり撮り、その場で確認する例がほとんど。大型の一眼レフ・カメラや、すぐ確認ができない銀塩フィルムのカメラを使うケースは少ない」(国立情報学研究所)と説明した。

導光板やLEDバックライトへの応用も可能

 今回の盗撮防止ユニットは17型のディスプレイに合わせた大きさで、奥行きも21cmと決して薄くない。この点について、越前氏は「アクリルを用いた薄い導光板でも同様なことが可能。さらには、LEDバックライトのLEDに赤外線LEDを混ぜることでも同様な機能を実現できる」とした。

 今回、用いた赤外線照射ユニットの放射強度は1ステラジアン当たり230mW。この安全性については、「LEDはレーザ安全規格からは除外され、一般光源と同じ扱いになっている」(越前氏)とした。

 ただし、赤外光を直接、しかも長時間見続けることの影響はまだ検証していないことも明らかにした。