図◎リーダーの決定とその条件。重大危機に直面したら、直ちに解決(復旧)組織を率いるリーダーを決める。深刻かつ緊急事態のため、必ず復旧に導かなければならない。そのために、ふさわしいリーダーを選抜する。
図◎リーダーの決定とその条件。重大危機に直面したら、直ちに解決(復旧)組織を率いるリーダーを決める。深刻かつ緊急事態のため、必ず復旧に導かなければならない。そのために、ふさわしいリーダーを選抜する。
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 今、重大危機で混乱した状況を解決に導くための組織づくりとその運営のノウハウを求める声が高まっています。トヨタ自動車(以下、トヨタ)は、被災した生産ラインの復旧活動に長けているといわれる企業の1つです。私は、同社在籍中に大小様々な危機を経験し、リーダーとして組織をマネジメントしたこともあります。こうした経験から学んだ、重大危機を乗り越えるためのリーダーマネジメントの考え方をご紹介し、復旧支援などのお役に立てたらと思っています(「日経ものづくり」2011年7月号に関連記事を掲載 )。

メンバーからの信頼がカギ


 ここで言う重大危機とは、地震や津波といった天災で被害を受けた場合を指していますが、業績が悪化して会社が倒産の瀬戸際にあるといった状況も含まれます。いずれにせよ、後がない切羽詰まった状況のことです。ここで真っ先にすべきことは、重大危機を解決に導く組織を率いるリーダーを決めることです(図)。

(1)自ら素早く行動して、メンバーを指揮・誘導できること
(2)自ら先頭に立ち、「現地・現物」で問題の解決に当たれること
(3)人間(安全)第一でメンバーを守れること

 重大危機に陥った際には、リーダーはできる限り早く現地に行かなければなりません。そこで重大危機の解決に挑む組織を構築し、指揮・誘導する役目を担います。難題が山積している場所(現地)で、問題が起きたり、起こしたりしているもの(現物)を直接観察し、先頭に立って回復(以下、復旧)に向けた計画図を描かなければなりません。そして、部下であるメンバーの安全を最優先して解決に臨むことはもちろんのことです。

 一見、当たり前のように思えるかもしれません。しかし、残念ながら、現実には不適切と言わざるを得ないリーダーが選ばれていることが間々あります。そうしたリーダーには、(a)決断力がなくてうろたえる、(b)災害(問題)から遠ざかろうとする、(c)メンバーに対応を押し付ける、(d)責任から逃れようとする、といった問題点が見られます。

 先の条件を満たす適切なリーダーを選ぶことが大切なのは、メンバーからの信頼が得られるか否かに大きく影響するからです。重大な危機には安易な解決マニュアルなどはなく、どんなに難しくても粘り強く考え抜いて、最後には必ず解決に持ち込む組織を構築する必要があります。これには、メンバーから絶対的な信頼を寄せられ、「あの人のためなら、苦労をいとわずに付いていく」と思ってもらえるリーダーが必要不可欠なのです。

 このことは、新技術開発などの難しいプロジェクトに挑むケースと基本的には同じです。この場合と重大危機に直面した場合とで決定的に異なるのは、実践的な人材、すなわち解決能力のある人材をメンバーに選ぶことです。

 通常の業務なら、能力ややる気の有無だけでメンバーを選別することは望ましくありません。能力が高まるように促したり、やる気のない社員のモチベーションを引き上げたりする人材育成はリーダーの仕事の1つだからです。ところが、重大危機に直面した場合は、そうした余裕は微塵もありません。能力が不足している社員ややる気のない社員は交代させるという厳しい態度で臨む必要があるのです。

 リーダーにとって、重大危機を乗り越えることは「必達目標」です。失敗すれば、その現場(工場)や会社が消滅しかねないからです。従って、組織内で行う議論は全て「解決のための議論」しか許してはいけません。この期に及んで、できない理由や言い訳ばかりを繰り返すメンバーは別の人材に代えるべきです。必要なのは、不可能と思えることを可能に変える知恵と意欲を持った人材だからです。

「信頼している」という言葉の力


 東日本大震災の津波で被災し、原発問題が長期化しています。初動対応のまずさが露呈したこともあってか、原発問題が起きてからしばらくは、責任者は誰か、誰が悪いのかといった「犯人捜し」的な動きが見られました。こうして、電力会社に集中的に厳しい非難の声が向けられました。