握手を交わす理研の野依氏(写真左)と富士通の間塚氏(同右)
握手を交わす理研の野依氏(写真左)と富士通の間塚氏(同右)
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 「いろんなことがあったので、素直に喜びたい」---。理化学研究所と富士通が開発しているスーパーコンピュータ「京」がTOP500リストで世界一となったことを受けた緊急記者発表会で、理研の計算化学研究機構機構長で次世代スーパーコンピュータ開発実施本部副本部長の平尾公彦氏はこう語った(関連記事)。

 「いろんなこと」とは、プロジェクトの途中でベクトル計算部を担当していたNECと日立製作所が離脱したこと、事業仕分けで「2位じゃダメなんですか」と事業の見直しを迫られたこと、東日本大震災でプロジェクトに関わっていた企業が被災して部品納入などに影響があったこと、などを指している。特に記者発表では、TOP500の登録に当たって被災企業の大きな尽力があったことを強調していた。記者発表会に同席した富士通代表取締役会長の間塚道義氏は、「震災後1週間から10日ほどは連絡を取れない協力企業もあり、開発スケジュールを守るのは難しいと考えた。しかし、逆に協力企業から部材を供給するからとの連絡に励まされ、製造・出荷の遅れを取り戻すために絶大な協力を得た。おかげで遅れは早期に回復できた」と、一時はスケジュールの大幅な遅れを覚悟していたことを明らかにした。
 例えば、プロセッサ製造の後工程を担う富士通インテグレーテッドマイクロテクノロジ(本社福島県会津若松市)や、高い加工精度が要求されるインターコネクトのケーブルやケーブルアセンブリを製造するイワサキ通信工業(本社宮城県栗原市)などが、遅れの挽回に非常に協力してくれたという。「東北の企業が開発を支えてくれたのは事実。彼らのがんばりがなければ、1位にはなり得なかった」(富士通常務理事の井上愛一郎氏)。その上で、平尾氏や間塚氏らは、「世界一の意義は大きい。日本の復興の原動力は科学技術とものづくりにある。京をその起爆剤にしたい」と異口同音に語った。

京の次は…

 日本のスーパーコンピュータがTOP500の1位となるのは、2004年6月の地球シミュレータ以来7年振りのこと。しかし、既に米国の研究機関などが10~20PFLOPSのスーパーコンピュータの開発を進めており、京が長く1位の座に居続けるのは難しい。「世界では既にEFLOPS(エクサフロップス)の競争が始まっている。日本もそれに向けて継続的な開発ができる体制が必要。開発に費用と時間がかかるため民間企業だけでは難しい。国の主導で進めるべき」(平尾氏)。記者発表会に同席した理研の理事長の野依良治氏も「世界中の優秀な研究者は、世界一の研究施設に集まってくる。京は国際的な人材を誘引する施設となる」と、今後も世界のトップを狙い続けることが日本の科学技術力を維持する上で重要との認識を示した。米国のみならず、トップ10のうち2機は中国製であるほか、韓国もスーパーコンピュータの開発に力を入れ始めており、日本は厳しい競争にさらされているが、京の後継計画は明確になっていない。