アイリスオーヤマ代表取締役社長の大山健太郎氏 (写真:栗原克己)
アイリスオーヤマ代表取締役社長の大山健太郎氏 (写真:栗原克己)
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 アイリスオーヤマ代表取締役社長の大山健太郎氏は、2011年6月7日に行われた「復興ニッポン・シンポジウム」(主催:日経BP社)で講演し、東日本大震災からの早期復旧を果たした“舞台裏”を明らかにした。現場の情報を把握・共有し、トップ自ら明確な方針を示すことが重要なカギだという。

 アイリスオーヤマが手掛ける製品は、収納用品、家具、家庭用工具、電化製品など多岐にわたる。その中には、避難所生活や復旧・復興活動に役立つ製品が少なくない。仙台市に本社を構える地元企業として何ができるかを考えた結果、被災者に役立つ製品を生産・供給することが最大の貢献であるという結論に至り、主力生産拠点である角田工場(宮城県角田市)の早期復旧に着手した。

 事前の備えもあって、地震による被害そのものはほとんどなかった。電力供給も2011年3月16日には再開した。最も困ったのは、人の移動に不可欠なガソリンの調達だ。

 大山氏は当初、電力供給が再開すればガソリンも程なく入手できるだろうと考えていた。しかし、知り合いの石油販売業の経営者から、東北地方には製油所が1カ所(JX日鉱日石エネルギー仙台製油所)しかないことを知らされる。同製油所では、震災直後に火災が発生していた。事態の重大さに気づいた大山氏は「1カ月はガソリンの入手に苦労する」と判断、人脈を生かし、直ちに関西地方でタンクローリーを調達した。東北地方の多くの企業がガソリン不足によって社員の自宅待機を余儀なくされる中、アイリスオーヤマは十分な量のガソリンや軽油を確保し、社員や関連企業、配送業者などに配布できた。

全員で情報共有を

 今回の経験から得られた教訓として、大山氏は(1)3現主義、(2)情報共有、(3)明確な方針の指示、の3つを挙げる。

 (1)は、具体的には「現場」「現品」「現状」に基づいた情報の重要性だ。同氏によれば、復旧が遅れ気味な企業は、経営トップが東京など被災地の外で指示を出していたケースが少なくなかったという。しかし、前出のガソリンの例からも分かるように、実際には現地の経営者ネットワークなどから得られる情報が企業の明暗を分けた。

 アイリスオーヤマの場合、大山氏を含めた5人の取締役のうち、震災当日に本社にいたのは1人だけ。大山氏は幕張メッセ(千葉市)で開催されていた展示会を視察していた他、残り3人もそれぞれ東京、名古屋、大阪に出張中だったが、全員が直ちに仙台を目指し、震災から2日後の2011年3月13日には全員が本社に集結、即座に対応策を打ち出した。

 (2)は、得られた情報を共有することの重要性だ。いち早くガソリン調達が困難になることに気づいた大山氏だが、例えばどこにいけばタンクローリーを調達できるのかということまでは分からない。そうした情報に詳しい社員の知恵を集約するには、情報を素早く共有する体制が不可欠だった。「多少手狭ではあっても、災害対策本部は1カ所にまとめて、そこにいる全員が情報を共有するのが望ましい」(同氏)。

 (3)は、トップの考えを伝えることの重要性だ。工場の早期復旧で地域貢献というのは、あくまで「経営者の発想」(大山氏)。アイリスオーヤマの社員もまた被災者であり、震災直後は家族と連絡が取れない社員も少なくなかった。とても仕事に集中できるような環境ではない。そこで同氏はまず、社員の前で宮城県および仙台市に計3億円の義援金を寄付することを宣言。会社が地域社会に貢献するという姿勢を明確に示した上で、あらためて早期復旧への協力を社員に要請した。

今後は100年に1回で津波を想定

 今回の震災ではさまざまな場面で「想定外」という言葉が使われていたが、企業経営における想定外は一定の頻度で起きているのだと大山氏は指摘する。バブル崩壊やリーマンショックのような景気の波は10年に1回、地震は30年に1回といった具合だ。

 同氏は、そうした不況や災害は「一定の期間のうちに起きるもの」という前提に立ち、たとえ不況や災害が起きても利益が出る経営を心掛けてきたという。だが、その同氏にしても津波だけは想定外だった。「今後は、100年に1回の津波も想定した上での経営が求められる」(同氏)。工場の備えという点でも同様だ。例えば、同社の工場は全て海抜50m以上の場所に立地している。津波を想定していたわけではなく、大雨による河川の氾濫に対応するための措置だったが、結果的に功を奏した。

 さらに大山氏は、不況や災害を乗り越えるための方針として、「人と同じことをしない」ことを挙げる。「当社は常に新製品を出し続け、需要を開拓してきた。新しい市場を狙って他社が価格競争を仕掛けてくるが、それを叩くのではなく、次の市場を目指すことによって成長してきた。新製品を出し続けている限り、どんな不況や災害が起きても生き残れる」(同氏)。

 例えばアイリスオーヤマが現在手掛けているLED照明は、原子力発電所の事故に端を発する電力危機を受け、市場が急成長している。「震災前は不況業種といわれていた土木・建築産業がいまや好況業種となったように、ピンチをチャンスとみることが大事」と同氏は語る。