2011年3月11日に発生した東日本大震災。発生直後から、電気や通信、食料などの生活インフラの普及に向け、さまざまな緊急対応・支援が進められてきた。一方で、時間の経過とともに被災直後の緊張感が徐々に緩和されていく中で、中長期的な視点からの健康・医療に関する支援はますます重要になってくる。

 こうした観点からの支援を目的に立ち上がったプロジェクトが、C3NP(Continuous Care & Cure Network Project:継続ケア・キュアネットワークプロジェクト)である。C3NPが取り組むのは、遠隔システムを使うことで、被災者が生活の場から移動せずに、医師なども被災地へ移動しなくても、継続的に医師などに健康・医療に関して相談できる環境を構築すること。そして、長期化する仮設住宅での孤独死を未然に防いだり、混乱が続くと予想される現地医療機関の負担を減らしたりすることなどである。

 C3NPの代表補佐である、慶應義塾大学 SFC研究所 所長 大学院 政策・メディア研究科 教授の金子郁容氏に話を聞いた。

(聞き手は小谷 卓也)


─C3NPを立ち上げた背景を聞かせてください。

金子 郁容 氏
金子 郁容(かねこ いくよう)氏
(写真:中島 正之)


 2011年3月11日以降、「これまでと同じようではいられない」という気持ちが強くありました。東京にいても、この震災は身近なものに感じます。その一方で、原発事故は日本がそう選択した結果ですので、無力感もあります。こうした状況ですから、まず、それぞれができること、それぞれが得意とすることをやっていくことが大切だと思っています。私にとっては、それがC3NPです。


 これまで私は、遠野市(岩手県)や栗原市(宮城県)で実施している遠隔健康相談事業に関わってきました。平時の際に取り組んでいたこの事業が成果をあげているのを知っていましたので、それを生かそうと。知り合いや大学の関係で、医師とのつながりを持っていますし、NTTの協力も得ました。ですから、とにかく可能性があることはやってみようと。遠野市は被災していますが、内陸部に位置しているので、(被災が大きかった)沿岸部に対する後方支援の拠点になっています。この遠野市などの協力も得ることで、今回の取り組みを進めています。

─医師などの反応は、どのようなものでしたか?


 最初は、ホームページを立ち上げ、知り合いに声を掛けと、小さく始めたのですが、「ぜひプロジェクトに参加したい」という医師の声が続々と集まりました。東京などから被災地に入った医療チームは多いですが、数カ月経って、自分達の通常の仕事もありますから、徐々に(被災地から)引き上げていきます。しかし、機会があるならば、一度訪れた地域とかかわり続けたいという医師もいます。仕事の合間や土日ならぜひ、ということです。そうした医師にとっても、遠隔システムというのは好都合なわけです。

─被災者にとっての今回の取り組みの有効性を、どのように見ていますか?


 これから被災者が仮設住宅に移ると、これまでよりも孤立することが多くなります。全国から来ていた医師団も引き上げますし、巡回も大変です。C3NPへのニーズは、これから本格的になると思います。既に仮設住宅予定地からの打診も来ています。とはいえ、初めてのことなので、やってみないと分かりません。一つのチャレンジです。


 今回の遠隔システムによるアプローチがベストな方法なのかどうかは分かりません。現地の健康・医療体制との連携も必要です。確かめながら進めるつもりです。すぐに大きな効果はでないでしょう。地道に、最低2年間は続けたいと考えています。

─遠隔システムのインフラは、被災地でも使いやすいものになるのでしょうか?

金子 郁容 氏
(写真:中島 正之)


 C3NPの仕組みは、インフラは問いません。光(回線)でも衛星(回線)でも、復旧状況に応じて対応します。高齢者はパソコンよりも、もっと使いやすい機器(テレビ電話端末など)が良いようです。最近では、Continua Health Allianceのように(健康機器と電子機器を通信で連携させるための)世界標準化が進んでおり、テレビ電話端末や通信デバイスの価格も下がってきました。センサ情報が自動的に送信されサーバーに蓄積されるという仕組みも簡単に構築できます。コスト面でも、使いやすさの面でも、被災地で使ってもらう上でギリギリ合格のレベルには到達していると思っています。

─遠隔で測定・管理する項目を今後、増やしていく考えはありますか?


 高齢者の場合、血圧や体重の管理に加え、万歩計なども必須のアイテムです。さらに、(被災者の)ご要望があれば、各種センサを利用して心拍などさまざまな情報を継続的にモニタリングすることも可能です。最近では、小型で軽量のセンサが数多く出てきたので、それらを利用することで「見守り」にも大いに力を発揮するのではないかと思います。ただし、今回の取り組みは先端的な技術を試すことが目的ではなく、「安心」を提供することを目指していますので、あくまで要望があれば…ということです。


 実際には、遠隔システムで健康管理そのものをしてもらうことだけでなく、みんなで集まって健康のことを楽しく話題にしてもらうこと、一緒に運動するきっかけにしてもらうなども非常に大事なことだと考えています。