図1●セルロースナノファイバーを30質量%添加したポリプロピレン複合材料の微細発泡体の組織写真(画像は京大・京都市産業技術研究所が提供)
図1●セルロースナノファイバーを30質量%添加したポリプロピレン複合材料の微細発泡体の組織写真(画像は京大・京都市産業技術研究所が提供)
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 京都大学と京都市産業技術研究所などの研究開発チームは、植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)で繊維強化したポリプロピレン(PP)樹脂の複合材料に、超臨界CO2(2酸化炭素)を添加する手法によって微細発泡させると、同複合材料が高剛性化・高強度化し、軽量化できることを明らかにした。

 京大生存圏研究所などの研究チームは、ポリプロピレン原料にセルロースナノファイバーを加えた複合材料原料に、超臨界状態のCO2を混合し、金型内で加熱・成形すると、CO2が微細な気泡として多数発泡した組織となり、軽量化と高剛性化などに大きな効果があることを見いだした。繊維強化によって耐熱性向上にも効果があることも示されている。

 例えば、セルロースナノファイバーを30質量%添加したポリプロピレン複合材料原料に超臨界CO2を混合し、金型内で成形すると、密度が0.88g/cm3とポリプロピレン本来の0.90g/cm3より軽量化し、曲げ弾性率が約1.6倍に、曲げ強度が約1.5倍に向上するとの実験データを得た。セルロースナノファイバーを30質量%添加したポリプロピレン複合材料の微細発泡成形体の組織写真を図1に示す。直径数μmと微細な独立気泡が多数できていることが分かる。

 京大生存圏研究所の矢野浩之教授は「繊維強化したポリプロピレン複合材料原料が微細発泡できることを示すことができ、軽量化に道を拓いた」と意義を語る。さらに「セルロースナノファイバーの添加量や複合材料の成形温度によって、微細な気泡の直径や発泡倍率が大きく変化する結果を得た」と説明し、「セルロースナノファイバーの添加量を増やすと、加熱前の複合材料原料の粘性がその分だけ増えて、発泡した気泡直径が小さくなり、独立した気泡の数が増える」と分析する。また、「ポリプロピレンの結晶化度が、超臨界状態のCO2を混合すると増大することも解析結果からつかんでいる」という。

 この研究開発は、京大と京都市産業技術研究所、王子製紙、三菱化学、DICの5社が、植物由来のセルロースナノファイバーで強化した熱可塑性樹脂を実用化し、自動車の車体材料に実用化することを目指した「セルロースナノファイバー強化による自動車用高機能化グリーン部材の研究」プロジェクトの一環として実施されたもの。

 同研究プロジェクトは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究プログラムに採用され、平成21年度から22年度(2009年度から10年度)まで実施された。さらに平成23年度(2011年度)から、継続プログラムに採用されている。現行のガラス繊維強化の熱可塑樹脂品や熱硬化性樹脂品の車体材料は、リサイクル時にガラス繊維の廃棄処理が課題になるのに対して、「植物由来のセルロースナノファイバーはサーマルリサイクルが可能になる点が大きな長所になる」(矢野教授)という。強化材料も有機材料である“オール有機材料系複合材料”の実用化を目指している。

 京都市産業技術研究所の有機系材料チームは、繊維強化材料のセルロースナノファイバーと樹脂が界面でしっかり結合するように化学修飾技術などの研究を担当してきた。元々は、2軸混練による複合材料原料の成形技術などの基盤技術を持っていたため、複合材料の成形技術などを主に担当してきた。

 今回の超臨界状態のCO2を用いるセルロースナノファイバー強化ポリプロピレン複合材料発泡体では、平成23年度末までに、30質量%セルロースナノファイバー強化発泡体で密度0.75g/cm3と、12%も軽量化させながら、曲げ弾性率は約2倍に、曲げ強さもいくらか向上させた機械的性質を達成させる計画である。この実用化研究には、三菱化学も参加している。