サングラスにカメラを装着
サングラスにカメラを装着
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数m先の交通信号の色を認識できる
数m先の交通信号の色を認識できる
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腕時計型リストバンドと指にはめるセンサ。体温、脈拍、血中酸素濃度を測定できる
腕時計型リストバンドと指にはめるセンサ。体温、脈拍、血中酸素濃度を測定できる
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コントローラ。測定した画像や各値を表示している。HR(heart rate)は心拍数、SpO2は血中酸素濃度。下のグラフは、脈拍の波形。
コントローラ。測定した画像や各値を表示している。HR(heart rate)は心拍数、SpO2は血中酸素濃度。下のグラフは、脈拍の波形。
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杖に装着した、超音波を使う測距センサ。
杖に装着した、超音波を使う測距センサ。
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 情報通信研究機構(NICT)は2011年5月25日、視覚障害者にヘルスケア/メディカル情報や歩行時の安全情報を伝える、ボディ・エリア・ネットワーク(BAN)システムを開発したと発表した。通信方式に、ヘルスケア/メディカル用の超広帯域(UWB)無線技術を利用しているのが特徴である。広帯域伝送と低消費電力を同時に実現できる可能性があるという。

 このBANシステムは、サングラスや腕時計型のリストバンド、杖などに各種のセンサを装着し、それらの情報を無線で飛ばして、腰に装着したコントローラで受信し、センサの各種情報を利用者に伝えるシステムである。

 具体的には、サングラスには小型カメラを装着した。カメラが赤や緑、青などの交通信号で使われている色の光を検出すると、その情報を受けたコントローラがカーナビのように「前方に赤い物体がある」などと音声で利用者に伝える。

 腕時計型リストバンドには、温度センサと、パルスオキシメーターを実装した。温度センサは利用者の体温をモニタリングし、パルスオキシメーターは指にはめて使うことで、光学的に脈拍や血中酸素濃度を測定する。

 また、杖には超音波を用いた測距センサを装着した。同センサから一定の距離に物体がある場合に、そのことを音声で利用者に伝える機能を備える。例えば、1m先に物体がある場合は「前方に障害物があります」、30cm先に物体がある場合は「直前に障害物があります」と伝える。測距センサ自体は、5~6m離れた物体を検知可能だという。

 これらの各種センサとコントローラは、インパルス方式のUWBの無線で通信し、しかもTDMA(時分割多重多元接続)でポイント・ツー・マルチポイント(P-MP)通信を実現している。UWBには、現在、屋内であればどこでも利用可能な7.7376GHz~8.2368GHzの周波数帯を用いた。無線ICには、日本ジー・アイ・ティー製のGaAsに基づく製品を採用したという。

BAN用の無線方式は3種類に大別

 BAN用の通信方式は現在、国際標準規格「IEEE802.15.6」としての標準化作業が進められている。同規格は2007年から標準化が始まった(関連記事)。当初、標準化作業は2009年後半にも終わると見られていたが、「当初の草案に2000超のコメントが寄せられた」(NICT ワイヤレスネットワーク研究所 ディペンダブルワイヤレス研究室 主任研究員の李還幣氏)こともあり、2年以上も余計に時間がかかっている(関連記事)。それでも、「2011年内の標準化完了が見えてきた」(李氏)という。

 現在、IEEE802.15.6の草案は、大きく3種類のワイヤレス通信技術を規定している。(1)400MHz帯から2.4GHz帯までの周波数を用いたナローバンド方式、(2)インパルス方式のUWB、(3)人体自身を信号の伝送媒体として用いる「人体通信」技術、の三つである。

 (2)のUWBの特徴は、広帯域伝送と低消費電力を両立できる点。(1)と(3)の最大データ伝送速度が1M~2Mビット/秒であるのに対して、(2)は他と同様な消費電力で10Mビット/秒を実現可能であるという。

 今回試作したシステムでは、「サングラスに装着したカメラのデータ伝送量が2Mビット/秒」(李氏)であるため、UWBが唯一の選択肢だったという。通信距離は最大1.5mと短い。

ヒモでつながれた無線…

 今後の課題の一つは、各センサ端末の小型化だという。「現在、各端末に実装している、チャネル外の周波数の電波漏れを防ぐ帯域通過フィルタ用の回路が大きい。これが不要になるか小型化するだけで、センサ端末の寸法は半分になる」(李氏)。

 また、今回のUWB無線が他の無線システムに影響を与えないという理解を得る努力も続けていくとする。現在7.25G~10.25GHz帯(ハイバンド)のUWB無線には、従来の一般のデータ通信向けUWBに対する議論で、親機に当たるコントローラは屋内限定で、しかも電源ケーブルにつないでいなければならない、という規制があるためだ。この規制をBAN向けに緩和して、利用可能な場所や環境を広げることも、今回のBANシステムを実用化する上では重要になる。