「まさか、日本で“これ”を製品化することになるとは…」。

 東芝の執行役上席常務でデジタルプロダクツ&サービス社 社長の大角正明氏は、自身が下した新製品の国内投入の決断を振り返った。「これ」とは、2011年7月にも発売する充電機能付きの液晶テレビである。

東芝が試作した充電機能付き液晶テレビ
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 同年4月に開いた液晶テレビやタブレット端末などの新製品発表会で、画面サイズが19型でLiイオン2次電池を載せた試作機を公開した。リモコンの専用ボタンを押せば、2次電池での駆動に切り替わり、交流電源なしでも最長で3時間ほどテレビ番組を視聴できる仕様を目指す。

 開発のキッカケは東日本大震災だ。

 充電機能を搭載することで、突然の停電でテレビが映らない状況を避けられる。電力使用のピーク時間に2次電池での駆動に切り替えれば、電力消費の時間シフトに多少なりとも貢献することが可能だ。

 価格は同じ画面サイズの通常機種に比べ、1万円ほど高くなる見込み。それでも、社会的要請である節電対策が後押しすれば、需要が広がる可能性がある。いずれは、売れ筋である32型の大画面テレビも用意したい考えだ。「ユーザーの関心は高いと思う。予想している販売台数よりも多くの需要があるのではないか」と大角氏が見る、今年の隠れた期待の製品である。

スピード感が支えるテレビ事業の勢い

 興味深いのは、充電機能付きテレビの製品発表に至るスピード感だ。開発に着手したのは震災後のこと。3週間ほどで試作機を仕上げ、製品化を公表した。もちろん、スピード開発の裏にはベースとなった製品がある。もともと、東芝は同様の機能を備えた液晶テレビを、2010年11月にASEAN(東南アジア諸国連合)地域で製品化済み。電力インフラが不安定な地域を想定した新興国発の機種だ。

黄色の「ピークシフト」ボタンを押すと電池駆動に切り替わる
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 その技術基盤があったことは確かだが、今回の日本向け液晶テレビは、ASEAN向けをそのまま流用しただけの製品ではない。画面サイズやスピーカーの小型化、ワンセグ放送への対応など日本向けの独自仕様を組み込んだ。特定の機能に強いニーズが少しでもあると見れば、一気に製品化を決断するこのスピード感は、今の東芝の液晶テレビ事業の勢いを象徴している。

 東芝が2011年5月9日に発表した同年3月期(2010年4月~2011年3月)の連結決算では、液晶テレビを含むデジタルプロダクツ分野の営業利益は前の期比で38%減の132億円と減益だった。ただ、主因はハード・ディスク装置(HDD)事業が100億円強の赤字になったこと。液晶テレビ事業は黒字を維持した。北米での単価下落などで多くのテレビ・メーカーが収益悪化に苦しむ中、同社の黒字は7半期連続だ。