半導体メーカーにとって,医療機器はこれから成長が期待できる魅力ある市場の一つだ。米Texas Instruments Incorporatedは2007年に医療機器向け半導体を扱う「Medical Business Unit」を立ち上げた。今回,TIの医療機器向け半導体について,日本テキサス・インスツルメンツに話を聞いた。

医療機器を四つに分けて,事業を展開 TIのMedical Business Unitは二つのグループからなり,一方のグループは左の二つの機器群を,もう一方は右の二つの機器群を扱う。日本TIのデータ。
医療機器を四つに分けて,事業を展開
TIのMedical Business Unitは二つのグループからなり,一方のグループは左の二つの機器群を,もう一方は右の二つの機器群を扱う。日本TIのデータ。
[画像のクリックで拡大表示]
Holter心電計のような小型機器(右上)でも,12波形の心電図が取得可能に 日本TIのデータ。
Holter心電計(右上)でも,12波形の心電図が取得可能に
日本TIのデータ。
[画像のクリックで拡大表示]

 日本TIによれば,Medical Business Unitは大きく二つのグループからなる。一つのグループは,民生向け医療機器(電子体温計や血圧計,インシュリン・ポンプなど)と医療用計測機器(心電計や脳波計,除細動器など)を扱う。もう一つのグループは,医療用の画像処理・診断装置(超音波診断装置やCT,MRIなど)と実験装置などを担当している。日本TIも,米国本社と基本的に同じく2グループの体制を取る。

 今回,それぞれのグループのマーケティング担当者に話を聞いた。民生向け医療機器と医療用計測機器のグループでは,鈴木巧氏(営業・技術本部 マーケティング/応用技術統括部 フォーカスド EE マーケティング 主査)が,画像処理・診断装置と実験装置のグループでは,菅原勇介氏(営業・技術本部 マーケティング/応用技術統括部 フォーカスド EE マーケティング 主事補)が語った。

 鈴木氏によれば,2007年にMedical Business Unitができる以前から,TIは医療機器向けに半導体を提供してきた。2007年に医療機器市場が急速に発展する特別なイベントがあったわけではにないが,先進国で進む高齢化に加えて,新興国が豊かになり医療機器の需要が拡大することが以前にもまして期待されるようになった。TIではこのころから,医療機器向けの半導体製品の集積化を,それ以前に比べて,積極的に進め始めたという。

心電計のAFEの部品点数を95%削減

 鈴木氏が,集積化を進めた典型例として挙げた製品は,TIが2010年3月に心電計などに向けて発表したアナログ・フロントエンド(AFE)ICの「ADS1298」である(Tech-On!関連記事1)。同氏によれば,このICが登場する以前,心電計のAFEは基本的にディスクリートで構成し,AFEだけで名刺大の大きさ,心電計全体は小さくてもノートPC大だった。消費電力が大きく,電池駆動は無理だった。

 ADS1298によって,部品点数と消費電力をそれぞれ最大で95%低減できるようになった。名刺大のAFEは1チップにまで小さくなった。これで,腰などに取り付けて24時間分の心電波形を取ることができる「Holter心電計」でも,臨床で使われている据え置き型の心電計と同じ波形が取れるようになったという。鈴木氏によれば,一般に使われている据え置き型の心電計では8チャネルのデータから12波形を得ている。従来のHolter心電計では,大きさや消費電力のために,12波形のうちに2~3波形しか取れなかったが,ADS1298の登場で12波形が得られるようになるという。

 TIはADS1298の発表から約1年後の2011年4月に,ADS1298に呼吸インピーダンス測定機能を追加した「ADS1298R」を発表した(Tech-On!関連記事2)。同機能は約40個のディスクリート部品で構成されるが,それもチップに取り込んだことで,AFEをすべてディスクリートで部品で構成した場合に比べて,部品点数は最大97%低減した。呼吸インピーダンス測定機能を集積したことで,Holter心電計で呼吸の状況も調べることが可能になる。例えば「不整脈と睡眠時無呼吸症候群のチェックが携帯型の機器でできるようになる」(同氏)という。