キヤノンは「MILANO SALONE 2011」(2011年4月12~17日、イタリア・ミラノ市とその周辺で開催)に参加し、プロジェクターやカメラを利用して自社のデジタル・イメージング技術を訴求する展示「NEOREAL WONDER ~キヤノンデジタルイメージングの世界~」を開催した。同社は展示のメイン会場の向かい合う二つの壁面の間に、建築施工で使われる直径0.5mm、長さ約16mの水糸約2万本を張った立体的なスクリーンを設け、そこに同社が販売するプロジェクターで映像を投影した。ミラノ市内にあり、例年来場者の多い「Superstudio Più ART POINT」内の825m2の会場を使い、プロユーザーから一般コンシューマまでを対象にした展示で延べ約7万人を動員した。

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約2万本の水糸で「WONDER」の文字を描いた。一方の壁の6点(各文字につき1点)から水糸を出し、向かい側の壁の鉄板に「WONDWR」の6文字の外周に沿って穴を空け、それぞれに水糸を通した(写真:三橋 倫子)

動画 「光束スクリーン」に映った映像。映像の中で上から下に動く画像が、
「光束スクリーン」では手前に飛んで来たり、遠ざかったりするように見える

(撮影:三橋 倫子。約1分12秒の動画)

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 会場設計と展示作品のデザインを担当した建築家ユニット・トラフ建築設計事務所は、メインの展示作品に紡績工場の写真からイメージした「Light Loom(光の織機)」というテーマを提案した。会場の壁面の6点から向かい側の壁面に描いた「WONDER」の文字の外周に向かって、約2万本の水糸を放射状に張った。文字の外周に沿った穴を鉄板に空けて水糸を通した。

 この「光束スクリーン」は、6文字全体で幅22m×奥行き15.3m×高さ5.5m。それぞれの文字を描く水糸に、各頂点付近から1文字につき3台のプロジェクターで映像を投影した。「光束スクリーン」の製作は太陽工業が担当した。

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「光束スクリーン」の頂点を設置した壁面の裏側。頂点の根本の部分が暗くなるため、LEDスポット・ライトを設置した。各シーンに連動して、それぞれの画面の最大色を点灯するように制御した(写真:三橋 倫子)

 立体スクリーンの両脇の壁面には、約300型のスクリーンを配置した。光束スクリーンを含めて両脇のスクリーンの端から端まで、1枚につながった映像を投影した。映像デザインを担当したWOWは「Circle of light(光の循環)」をテーマに、7分半の映像の中で、日が昇ってから日が沈むまでの一日の中をめぐる光と1年の中の四季を表現した。

 四季の映像が終わると「夢の中の世界」の映像が流れる。この映像は、東京の都市や小さな水槽にインクをたらして水にカラー・インクが溶けていく様子などである。キヤノンのカメラを使ってWOWが撮影し、映像に取り入れた。WOW チーフ クリエイティブ ディレクターの於保浩介氏は「映像には生活の中にあるモチーフを使った。さまざまな映像を映す実験をくり返し、例えば実写よりもコントラストの強い映像の方が効果は高いなど、立体スクリーンに合う映像を模索した。見る角度によって映像が違って見える面白さを体感してほしい」と話す。

 トラフ建築設計事務所共同主宰の鈴野浩一氏は「空気のようなスクリーンをつくろうと考えた。映像のそのものに入るような体験ができることを目指した」と語る。総合プロデュースの桐山登士樹氏(TRUNK)が着目し、今回の展示を発想するきっかけとなった同事務所の作品「空気の器」や入口正面で目に入る「WONDER」の大きな文字もすべてキヤノンのプリンターで出力した。

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今回の展示を発想するきっかけとなった「空気の器」200個も展示した。キヤノンのプリンターに合う用紙を探して、紙の両面に計30種類の柄を印刷した(写真:三橋 倫子)

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入口正面には、テント地のような素材にキヤノンのプリンターで出力したWONDERというタイトル文字がある。文字を刺繍のような模様で構成している(写真:三橋 倫子)

 映像には合計24台のプロジェクターを使い、すべてを連動させた。キヤノンは自社製の反射型液晶パネルLCOSを搭載したプロジェクター「XEED WUX4000(ヨーロッパ発売製品名)」「WUX10 Mark II」などを配置した。映像制作の一部には、デジタル一眼レフ・カメラ「EOS 5D」やデジタル・ビデオ・カメラの新製品「iVIS HF M41」を使用し、入力から出力まで自社の技術を活用した。