カネカは、イタリア・ミラノ市トルトーナ地区の「Super Studio」内で、厚さ0.6mmのカラー有機ELパネル約2500枚を使い、「BAR × JAPAN × OLED 美しき日本の酒場」をテーマに実用的なバーを模した空間を展示した。空間デザインを担当したトラフ建築設計事務所は、有機ELパネルを夜桜の花びらに見立て、5cm角の白と赤のパネルを、天井から水平に、高低差をつけてつり下げた。この展示は、2011年4月にイタリア・ミラノ市とその周辺で開催された展示会「MILANO SALONE 2011」に併せて行ったもの。

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パネルの薄さが分かるように目線に入る位置にも配置した(写真:三橋 倫子)

動画 派手な点滅にならず落ち着きのある動きに見えるよう、
回路分けや調光オン/オフの設定を工夫した

(撮影:三橋 倫子。約55秒の動画)

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 低い位置につったパネルの下にはテーブルを置いた。黒い天板にはパネルの発光面が映り込み、鏡面に仕上げた壁にも部屋が映り込む。トラフ建築設計事務所を共同主宰する鈴野浩一氏は「日本と共有できる設定として、夜桜と結びつけた。テーブルは水面のように光り、のぞき込むと天の川のようにも見える」と話す。会場では花見のように来場者に日本酒が振る舞われた。

 軽さを強調するため、パネルを電源からの配線だけでつり下げた。「コードの長さも少しふくらみがでるよう長さを指定した。どうしても見えてしまう端子の部分などは、ふわふわしているような、かわいらしいストーリーをもう1層かぶせて見せることを考えた」と禿真哉氏(トラフ建築設計事務所共同主宰)。

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電源から出る配線と有機ELパネルから出るフラット・ケーブルの接続部分を大きな端子やソケットを使わず磁石で止めるなど、細部の見え方にこだわった(写真:三橋 倫子)


 制御には照明デザイナーの岡安泉氏(岡安泉照明設計事務所)が加わり、提案の初期段階からコンセプトを共有し制御のプログラムを担当した。有機ELパネルの応答性の高さを生かして調光とオン/オフの点灯パターンをつくった。風がそよぎ、桜吹雪が舞う様子などを表現した。

 岡安氏は有機ELパネルについて、2~12枚を一つの回路につなぐよう指示し、それぞれの回路に7~100%まで調光をかけた。すべての回路で100%点灯した時の照度は床面で平均約300lx。制御には、LEDの制御と同様に、舞台照明などで使われる制御方式DMXの採用を考えた。既製のソフトウエアに合わせられるように、使用できる電源の開発をカネカに依頼した。岡安氏は、「そもそも、有機EL照明にはDMXで制御するというストーリーがなかった」と振り返る。

 鈴野氏は設営完了までの様子を「有機ELパネルの取り付けは、現場に携わる皆にとってすべてが初めて取り組みで、取り付けにも時間がかかった」と振り返る。東日本大震災の影響もあり国内での作業は遅れた。展示室に新たな壁を立てて展示空間を狭くするということにして、施工を開催期間に間に合わせた。また禿氏は、今回初めて扱った有機ELパネルと展示空間について「有機ELパネルは面だからこそ、単体で見るとプロダクトに見え、全体を見ると建築と照明、インテリアと照明が一体になって、ゆるやかに照明が天井をつくっているようだ」と話す。

 展示空間の2階にある幅1.5m、奥行き6~7mという細長い空間は、バー・カウンターをイメージした。1階と同じく、有機ELパネルのペンダント75個をつり下げた。パネルは2枚1組で合計150枚使用した。「パネルが硬質なため、それをいかに和らげるかを考えた。植物のような生き物のようなイメージ」と禿氏。緑と青のパネルも点灯するよう制御している。

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2階の通路にペンダント展示した。白と赤の2枚のパネルを張り合わせ、トレーシング・ペーパーで作ったシェードをかぶせた(写真:三橋 倫子)

 このほか、カネカは三角形の有機ELパネルも製作・披露した。「三角形の形を生かすため、約300枚をネックレスのようにつないだ」と鈴野氏は語る。

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三角形のパネルをネックレスのようにつないだ。1階の高い位置に設置することで、2階の展示室への流れを促した(写真:三橋 倫子)

 会場には「カネカOLEDデザインコンペティション2010」で大賞を受賞した、森田文子氏の作品「Pieces of Light」の試作も展示した。複数の有機ELパネルと光を反射する補助ピースをヒンジでつなぎ、1枚の布ように見せる案である。今回は樹脂の一体成型であり、2枚に分けて製作した。森田氏は「時間の制約がある中でも実現してうれしい。薄くしたり構造を変えたりと、改善したい部分がたくさんある」と、有機ELならではの新たな課題に向き合う。

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「カネカOLEDデザインコンペティション2010」で大賞を受賞した、森田文子氏の作品「Pieces of Light」(写真:三橋 倫子)