図1 開発した「フルSiC-IPM」
図1 開発した「フルSiC-IPM」
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図2 説明パネル
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図3 従来品と大きさを比較。左が従来品で,右が開発品である。
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図4 開発品の回路構成の概略図
図4 開発品の回路構成の概略図
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図5 4インチ基板上に作製した,「電流センス機能」付きのSiC製MOSFET
図5 4インチ基板上に作製した,「電流センス機能」付きのSiC製MOSFET
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 三菱電機は,トランジスタとダイオードの両方にSiC製パワー半導体素子(以下,パワー素子)を用いた,いわゆる「フルSiC」のパワー・モジュールを開発し,同社の「研究開発成果披露会」(2011年2月16日,東京で開催)に出品した(図1,2)(発表資料)。同社はこれまで同種のパワー・モジュールを試作済みだが,今回の開発品の特徴は,駆動回路と共に過電流保護回路をモジュールに内蔵したことである。

 Si製IGBTやパワー・ダイオードを用いる従来のパワー・モジュールのうち,IPM(intelligent power module)で駆動回路と過電流保護回路が搭載されているものの,「フルSiCのパワー・モジュールで保護回路まで内蔵しているのは世界初」(同社)という。開発品は,駆動回路と過電流保護回路を搭載するため,同社は「フルSiC-IPM」と呼ぶ。耐圧は1.2kVで,電流容量は300Aである。

 SiC製パワー素子を利用したことで,電流密度を高めつつ,損失低減が可能になった。一般に,パワー素子における電流密度の向上と損失低減の両立は難しいという。Si製IGBTを用いた従来のIPMに比べて,電流密度を約3倍にしつつ,インバータ利用時の電力損失を約70%低減した。

 電流密度の向上によって,パワー素子が占める面積(1チップ当たりの大きさ×チップ数)が減り,モジュールの小型化につながった。外形寸法は12cm×8.5cm×3.0cmと, Si製IGBTを用いた同じ耐圧・電流容量のIPM(17.2cm×15cm×2.4cm)と比べて,約半分の体積になった(図3)。小型化に向け,駆動回路や保護回路を実装する制御基板も従来よりも小さくしたという。

MOSFETに流れる電流を分流


 開発品はトランジスタにSiC製MOSFETを,ダイオードにSiC製ショットキー・バリア・ダイオード(SBD)を利用する。保護回路向けに「電流センス機能」をMOSFETに搭載した。同種の機能は,Si製IGBTに搭載されているが,SiC製MOSFETに採用されるのは「今回が初めて」(説明員)だという。

 電流センス機能はMOSFETに流れる電流の一部を分流するもの(図4)。保護回路がこの分流した電流の大きさを監視し,ある値以上の電流値(過電流)を検知すると,駆動回路(ゲート・ドライブ回路)を遮断する。これにより,短絡時に生じるパワー素子の破壊を防止するとともに,モジュールを搭載する機器も保護する。

電流センス機能をMOSFETに導入する上で難しかったのは,「分流比の設定や,メインの電流部とセンス部との絶縁を確保すること」(説明員)である。前述したように,電流密度を高めたため,絶縁の確保がSi製IGBTよりも困難になったとする。

18チップ構成