Netflix社 CEOのHastings氏

 Netflix社の創業者でCEOのReed Hastings氏は,「Netflix社は,単なるDVDの宅配レンタル企業ではない。宅配レンタル“も”手掛けるネット動画の配信事業者だ」とまで言い切る。「2010年第4四半期には,配信動画の利用が宅配レンタルを上回る。宅配レンタルはまだ成長しているが,動画配信の伸びははるかに速い」(同氏)。

 米国の映像コンテンツ業界は,Netflix社の配信サービスの急成長に,期待と不安の入り混じった視線を向けている。大手映画会社などからすれば,新たな収益を確保する基盤になる可能性があると同時に,従来のビジネスモデルを崩しかねない強力なインパクトを秘めているからである。Blockbuster社の破綻は,それを象徴する大きな出来事の一つだったのだ。

 では,従来の映像ビジネスへの影響を懸念する声があるのはなぜか。その理由は,Netflix社が提供する配信サービスの価格にある。

CATVよりも圧倒的に安価なサービスが可能に

 2010年9月にNetflix社は,DVDレンタルを含まない定額で見放題の配信サービスをカナダで開始した。価格は月額7.99カナダ・ドル(1カナダ・ドル=83円換算で約660円)。同年11月には米国でも,サービスの価格をほぼ同等にした。

 単純比較はできないが,この金額はケーブル・テレビ(CATV)やデジタル衛星放送の契約料金よりも圧倒的に安い。例えばCATVでは,月額料金が100米ドルを超えることもある。実は,この安さに魅力を感じた視聴者がCATVや衛星放送の契約を打ち切るのではないかと懸念する声が米国で高まっているのだ。Netflix社の定額VODサービスと,地上デジタル放送の放送コンテンツを組み合わせれば,多くの消費者が満足する低価格な映像サービスを実現をできる可能性がある。

 米大手映画会社などは現在,DVDやBDなどパッケージ媒体の売り上げ減に直面している。米調査会社のSNL Kagan社によれば,2007年に120億1000万米ドルだったパッケージ媒体の売上高は,2010年に102億4000万米ドルにまで落ち込む見通しだ。

 これにより相対的に業績面で重要になっているのが,CATVや衛星放送などの事業者が,映像作品の提供への対価として映画会社などに支払っている放映ライセンス料だ。パッケージ媒体の収益が目減りする中,このライセンス料を守ることが映像コンテンツ業界の大きな命題になっている。

 仮に,CATVや衛星放送の視聴者が契約を打ち切り始めれば,映画会社などが受け取る放映ライセンスの収入は大きく減る可能性がある。米国では,CATVの加入数が約6000万件,衛星放送が約3300万件で,合わせて9000万件を超える巨大産業だ。そこからの収入減少は,コンテンツ業界にとっては大きな打撃になりかねない。

 実際,金融大手のスイスCredit Suisse Group AGのように,映像コンテンツ関連の大手メディア企業の株価が下がる可能性を指摘する声も出てきた。「Netflix社の動画配信サービスは,いずれ中間所得層の消費者にとって“十分”なサービスになる。そうなれば,CATVなどの有料テレビを代替することになるだろう」と同社は指摘する。