高位合成(動作合成)ツールを,LSI設計に広く適用するようになったという報告を聞く機会が増えている(例えば,Tech-On!関連記事1)。今回は,リコーの事例である。複合機などの画像処理装置向けのASIC開発において,高位合成ツールをごく普通に使うようになった経緯が発表された(同2)。

図1●講演する伊地知和宏氏(左端) Tech\-On!が撮影。スクリーンはリコーのデータで,同社の製品を紹介している。
図1●講演する伊地知和宏氏(左端)
Tech-On!が撮影。スクリーンはリコーのデータで,同社の製品を紹介している。
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 この発表は,11月5日に新横浜で開催の「Cynthesizerユーザー交流会2010」(主催はフォルテ・デザイン・システムズと米Forte Design Systems, Inc.)のユーザー事例として行われた。登壇したのは,リコーの伊地知和宏氏(コントローラ開発本部CH開発センター 第二開発室 開発第一グループ リーダー)である(図1)。

変化はトップの決断でやってきた

 複合機の画像処理,特に,これといった標準規格がない出力系は,高速・高画質化競争の最前線といった状態である。例えば,リコーの複合機「imagio MP 7501シリーズ」では,600dpi(dot per inch)のフルカラーのデジタル画像データを,70枚/分の速度でコピーできる。これを可能にするためには,1画素当たりを数10ns秒で処理する必要がある。汎用のプロセサ・チップによるソフトウェア処理では間に合わないため,ほとんどの処理がハードウェア(ASIC)化されている。

 高速・高画質化競争が激しくなるにつれて,複合機のASICの規模は大きくなり,RTL設計ではいずれ限界が来ることが予測されていた。このためリコーでは,約7年前から高位合成ツールの導入を検討してきた(Tech-On!関連記事3)。すでに高位合成で設計した回路は,ASICに取り込まれている。しかし,複合機のASIC開発現場で広く高位合成を使う状況になかなかならなかったという。

図2●評価に参加したエンジニア リコーのデータ。
図2●評価に参加したエンジニア
リコーのデータ。
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 伊地知氏によれば,変化はトップの決断でやってきた。すなわち,「人的リソースを投入してもいいから,高位合成の実力を確かめろ」と言われたと同氏は語った。「実力あり」という判断になれば,高位合成ツールの本格導入が期待できる。EDA部門と共に高位合成推進派だった同氏は,「ASIC全体を高位合成する」をテーマにして,現場のエンジニアに高位合成ツールを使ってもらい,その実力を試すことにした。

 使う高位合成ツールは,Forteの「Cynthesizer(入力言語はSystemC)」である。対象の設計には,以前にRTLで人手設計したことがあるチップを選んだ。高位合成は同チップのモジュールごとに実行した。評価を行った設計者は4名である(図2)。(1)高位合成を使ったことがある設計者,(2)熟練RTL設計者,(3)SystemC経験のある検証エンジニア,そして(4)入社1年目の新入社員である。