APから16本のビームが出る様子と,それを時分割で順番に切り替える様子。(発表資料より)
APから16本のビームが出る様子と,それを時分割で順番に切り替える様子。(発表資料より)
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 情報通信研究機構(NICT)と三菱電機は,60GHz帯ミリ波で数百Mビット/秒の高速通信を実現する1対多型の無線通信システムを開発した(発表資料)。電車内でのデジタル・サイネージ(電子看板)へのデータ伝送や,航空機などでの無線システムとしての利用を想定する。

 開発した無線システムは,アクセス・ポイント(AP)側のアンテナと無線端末側のアンテナなどから成る。AP側アンテナは,導波管16個を低損失な樹脂基板上にアレイ状に並べたもので,薄型化と低損失化を実現したとする。16個の導波管からはビームが重ならないように照射される。例えば,高さ2.5mの天井にこのアンテナを設置すると,4m角のエリアを埋め尽くすように16本のビームが床に届く。

 1対多通信時の多元接続方式には,時間分割多重(TDMA)の一種を採用した。具体的には,まずAP側は,アンテナのビームが届くエリアのどこに何台の端末があるかどうかを把握してから通信を開始する。端末が1台であれば,16本のビームのうち1本だけを利用して1対1の場合とほぼ同様に通信する。開発したシステムでのAP1台,端末1台の場合のデータ伝送速度は739Mビット/秒であるという。

 仮に,2台以上の端末があった場合は,16本のビームのうち,端末群と通信できるビームだけを使う。そのビームを時間的に順番に切り替えることで,端末が通信できる時間を割り当てる。仮に16台の端末がAP側アンテナの各ビームと対応するように配置されていると,特定の端末が通信できる時間は端末1台だけの場合の1/16以下になる。

 ビームの切り替え時間は,16ビームを利用する場合,「今回は5msで端末を一周する設定にした」(三菱電機)。ただし,この時間はより短くも長くもできるという。

 ちなみに,AP1台に2台の端末,というシステムを2組,「マルチセクター制御」機に接続した場合,各端末のデータ伝送速度は146Mビット/秒,4端末合計では同583Mビット/秒であったという。マルチセクター制御機は,複数のAP間で統一したアクセス制御を実行する役割の機器である。