記者からの質問に答えるトヨタ自動車代表取締役社長の豊田章男氏
記者からの質問に答えるトヨタ自動車代表取締役社長の豊田章男氏
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 トヨタ自動車が2010年2月9日に開いた,一連の品質問題に関する記者会見の質疑応答の内容を報告する〔質疑応答の(中盤),(終盤)〕。この日は,同社が「プリウス」のリコールを届け出た日だったが,質問はアクセルペダルの問題など多岐に渡った。この中で,同社代表取締役社長の豊田章男氏は,同社が全能の存在ではない旨を繰り返し述べ,今後問題が起きた場合には修正・改善に努めるという姿勢を強調した。

 同日の記者会見に臨んだのは,豊田氏と代表取締役副社長の佐々木眞一氏である。

(日本経済新聞)豊田社長にお願いします。この会見に先立って,国(土)交(通)省のほうでレク(国土交通省交通運輸記者会における国交省担当者による説明)があったのですけれども,そのときには,(国交省自動車交通局技術安全部審査課)リコール対策室長(板崎龍介氏)がですね,保安基準に適合にしない可能性があるというような見解を,対策室長が言っていました。それとリコールの規模としてもですね,まずまずそこそこの大きさ,要するに飛び抜けて件数が多いとかいう認識はないと。非常に聞いていた印象として,非常にグレーな判断が出たような気がしますけれども,そういう中で,今回,プリウスについてリコールに踏み切った理由をあらためてお聞きしたいと。

 2点目が,米国で明日(2010年2月10日,ただし天候の影響によって,その後で同月24日に延期になった)公聴会がありますけれども,米国の消費者,あるいは欧州の消費者に対してですね,例えば,直接社長が現地に行って説明されるような機会とか,そういうものを考えておられるのかということ。

 あと最後に,(20)06年のときにも,いろいろリコールがあってですね,体制を強化したと思うのですね。今回の案件というのは,そのときと違った要因がこう起きてですね,こういうことにつながったのかどうか,そのへんをちょっとお聞かせください。よろしくお願いします。

豊田氏の回答

 まず1点目でございますが,1点目,佐々木副社長の方から補足いただきますけど,リコールに踏み切ったのは,発生件数がですね,継続性があるかどうか,どのくらい発生したかということで,リコールかリコールでないかという判断をさせていただきました。これは,後ほど補足をさせていただきます。

 訪米する予定でありますけれども,現在のところ,私自身は考えております。現在米国の会社の従業員,そして販売店,仕入れ先の一人ひとりが本当に一致協力して決定した改善努力に取り組んでもらっています。彼ら,彼女らを現地現物で激励するとともに,私自身の言葉で関係各位にしっかりとご説明をさせていただきたいということで,現在計画はしております。

 それから,3点目のご質問の(20)06年のリコールの体制強化でございますが,私流の言葉で言わせていただければ,トヨタはですね,絶対に失敗をしない全能の存在であると,いうふうには自分は思っておりません。しかしながら,欠陥を発見したり,また失敗したり,それから,お客様からいろいろなご指摘をいただいたときは,これらを必ず修正して,さらに改善し,より優れた製品を顧客に提供して参りましたし,今後もそういう形で実施していくことに対しましては,私自身強い自信を持っております。ですから,そういう意味で,まず事実を確認し,必ずそれをごまかさないというか,いいかげんなごまかしは絶対にしないと。また,基本姿勢は,あくまでも顧客の安全と,いわゆる便宜を確保することを考えているということに関しましては,ぜひご理解賜りたいと思っております。

佐々木氏の回答

 最初のご質問のですね,保安基準に関しての解釈でございますが,保安基準は大きくいいますと2つの要件から成り立っていると我々は理解しております。

 1つは,試験のやり方が決まっておって,その試験の結果の数値がある基準以内に入っていることと明確に規定された基準でございます。こういう点からいきますと,今回のプリウスのブレーキの性能は,完全に保安基準に合致しております。

 ただ,保安基準はそれ以外に,堅牢要件といいますか,お客様の安全な運行を保証するということも一方で要請をされております。ここの理解が,我々が昨年(2009年)の時点でお客様の苦情をベースに検討していた時は,違和感だとか,フィーリングだとかという気持ちが多かったということは否めなかったと思います。

 ただ,その後,冬場に,本格的な冬になりまして大変多くのお客様のご意見等をいただき,我々も先ほど申し上げましたように現地現物,お客様の下に駆け付けて,お客様が実際に冷やっとしたとか,おかしいと思ったという路面,それから運転の仕方,これを1件1件確認して参りました。そうしましたところ,幸いにもこのケースでお客様に重大な事故に遭ったとか,おけがをなされたことは,今のところ起きてはいないわけでありますが,20万台がこの先何年もずっと走り続けることを考えて,絶対にそういうことはないのだと言い切れるかというと,それはメーカーとしてもとてもそこまでは言い切れない。やはり,お客様第一ということを考えれば,そんなことを言っている場合ではない。これは(2010年)2月5日の私どもの社長の豊田の話で「お客様第一で考えろ」というふうにきちっと指示をされたこともありますし,我々も保安基準の心をしっかり理解して,今回のリコール対策ということに踏み切りました。(次ページへ