東芝の庄木氏
東芝の庄木氏
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 携帯機器やAV機器に向けた,無線による電力伝送(ワイヤレス給電)技術への関心が高まっている。国内では,機器メーカーなどを中心に,ワイヤレス給電の実用化検討に向けたプロジェクトが立ち上がっている。ブロードバンドワイヤレスフォーラム内に設置された「ワイヤレス電力伝送SWG」である。同SWGで主導的に活動する東芝 研究開発センター ワイヤレスシステムラボラトリー 研究主幹の庄木裕樹氏に話を聞いた。(聞き手は蓬田 宏樹=日経エレクトロニクス)。



――ワイヤレス給電技術の研究開発を進める狙いとは?

庄木氏 以前から,社内でいろいろ研究開発を進めていく中に,ワイヤレス給電に関するテーマがあった。例えばノート・パソコンは,無線LANの活用によってケーブル・フリーを実現できているが,やはり電源ケーブルは残っている。いずれは電源ケーブルも不要にしたいという思いから始まったものだ。

MITの発表が刺激に

 そんな中,米MIT(Massachusetts Institute of Technology)が,電力を数m伝送するという発表を行い,これがきっかけとなって周囲も盛り上がり始めた。我々も本格的に検討することになった。国内でも,総務省の電波政策懇談会の中で「無線電力伝送の可能性」が検討されることになり,一気に話が進んだ。

 現在,YRPなどが母体となってブロードバンドワイヤレスフォーラムが活動開始しているが,その中にワイヤレス電力伝送技術を検討するSWG(サブ・ワーキング・グループ)が設けられた。我々はこのグループで活動している。


――どのようなアプリケーションが考えられるのでしょうか?

庄木氏 我々は,SWGで活動する会員企業に対し,どのようなアプリケーションを想定しているか,アンケート調査してみた。その結果を分析すると,大きく四つの分野があることが分かってきた。

 まず第1に,デジタル家電機器などを対象とした,非接触型の電力伝送である。電力の伝送距離は,数mm~1cm程度のものだ。主に電磁誘導技術を使い,パソコンや携帯電話機の非接触充電などに用いる。

デジタル家電だけでなく,掃除機や電子レンジも

 2番目は,もう少し長距離の電力伝送を用いるアプリケーションである。伝送距離は数十cm~1m程度のイメージだ。対象となる機器はやはりデジタル家電機器で,パソコンや携帯電話機,デジタル・カメラといったもの。送信電力は最大数十Wのレンジである。

 3番目は,さらに送信電力を高めるものだ。対象機器としてはデジタル家電だけではなく,掃除機や冷蔵庫,電子レンジ,さらにはドライヤーやアイロンといった,大電力を用いる機器を駆動する用途である。

 そして4番目は,電動車両や産業機器向けである。電気自動車やトラム,工場のベルトコンベアーといったアプリケーションに期待する声が挙がっている。

 これらのうち,現在我々が注目している利用シーンは,2番目のデジタル家電機器である。方式としては,磁界共鳴技術に興味を持って進めているところだ。


――実用化する際には,どのような点が課題となりますか?

庄木氏 大きく四つの課題があると考えている。ブロードバンドワイヤレスフォーラムのSWGでは,これらの課題について議論していく予定である。

 まず,1)法制度上の課題である。例えば,ワイヤレス給電の送信機や受信機は,「高周波利用設備」という位置づけなのか,もしくは「無線機」という扱いなのか,ということだ。通信を行う無線機という扱いであれば,周波数帯の確保が必要になる。

 2)は,人体防護に関する点である。総務省の電波防護指針や,ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)のガイドラインといった基準が存在するが,SWGの中でどのような基準が求められるのか,議論する方針だ。

 そして3)は,電磁干渉の影響である。電磁誘導や磁界共鳴といったデバイスによって,周辺の他機器に誤作動が発生してはいけない。放射雑音の影響など,電磁干渉の評価が必要になる。発熱への基準も必要になろう。

 最後の4)は,方式の標準化である。日本国内だけでなく,グローバルな標準規格が必要になる。既に,一部の企業で標準化を目指す動きも始まっているが,こうした標準規格化をどのように進めるかも,SWGで議論する必要があると考えている。

 仮に電波法にからむような議論が必要になるとすれば,総務省との協議も重要になる。この場合,なるべく多くの企業で連携して議論した方が良い。こうした面から,ブロードバンドワイヤレスフォーラムのSWGに,もっと多くの企業に加わっていただきたいと考えている。