京都大学の松山氏
京都大学の松山氏
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――通信の世界では「QoS(クオリティ オブ サービス)」という概念がありますが,それに近いのでしょうか。

松山氏 そうです。いわば,「QoEn(クオリティ オブ エネルギー)」を実行するということになります。
 こうした仕組みがあれば,家庭の省エネルギーは非常にやりやすくなる。例えばあるユーザーが,家庭のエネルギー・マネージメント・システム(例えばホーム・サーバーのようなもの)を使い,「私は電力使用量を50%減らす」というふうに設定する。こうなると,家庭の電力利用は,使用上限をかぶせられたのと同一になる。エネルギー・マネージメント・システムは,この枠を上限として電力を供給するため,絶対に省エネルギーを実現できる,というわけです。

 繰り返しになりますが,この発想は電力会社の系統制御に向けたものではありません。利用するエリアを閉鎖系にして,電力事業者に迷惑をかけないようにします。

 ただ,こうした発想は,将来的には電力事業者にもメリットがあると思っています。家庭や地域の中で,電力の変動が吸収されるため,系の外側からみると,安定的に電力を利用するものに見えるからです。

――オンデマンド型ネットワークを実現するには,どのような取り組みが必要なのでしょうか。

松山氏 まずは一軒の家の制御から初め,その後,徐々に複数の住戸間でエネルギーをやりとりしたり,地域的規模に広げていけばいい。このためには,オンデマンド型エネルギー制御や,QoENのプロトコルの整備が必要です。

 このため現在,二つの国家プロジェクトに関わっています。ひとつはNICTのプロジェクトで,オンデマンド型電力ネットワークのプロトコルや,QoEnについて取り組んでいます。もうひとつはNEDOのプロジェクトで,直流給電を利用した家(いわゆるDCハウス)の実現のための,ハードウエア的な仕組みづくりを行っています。QoEnなどのプロトコルに関しては,世界的に標準化に持ち込むという考えもあります。

――電力マネージメントに新しい発想を持ち込む声が高まる一方で,「エネルギーの管理は安全保障に関わる」として,一定の制限をかけるべきでは,という意見も出ています。

松山氏 かつて通信の世界では,電電公社があり,すべての電話線を支配していました。電電公社が分割民営化する際にも,「誰が盗聴するかわからない。通信は国家が提供するべきだ」として,分割民営化に反対する意見も多くありました。しかし,現状を見てください。通信の世界にはさまざまな企業が参入し,端末も売り切りとなって自由化されました。

電電公社型からの脱却

 ぼくは,電気の世界はまだ「電電公社時代にある」と思っています。でも,これまでの歴史に学べば,インターネットの文化がエネルギー・マネージメントの世界に行くのは自然の流れであり,その流れはもう誰にも止められないでしょう。例えば通信の世界では無線通信が一般に広く利用されるのと,分割民営化がリンクしていた。エネルギーの世界でも例えば「蓄電技術」や「太陽光発電」技術が登場してきたことで,「みんな何かできるんじゃないか」という発想が生まれているわけです。

 でも,その際にはきちんとしたマネージメント技術が必要になる。僕らがやっているのは,その部分というわけです。

 とはいえ,電力事業者に喧嘩を売る気は全くありません。いわば「ウインーウイン」で行きたいと。電力事業者さんには系統制御をどんどん進めてもらいたい。我々は,家庭を出発点に,いろいろやっていきますよと。インタフェースは電力メーターになります。こうした動きが並立していいと思っています。

――米国のメーカーも,ZigBeeなどの無線通信やHomePlugなどの電力線を使った家庭のエネルギー・マネージメントに向けた伝送プロトコル作りを急いでいます。

松山氏 確かに彼らも始めている。しかし僕の理解では,彼らはオンデマンド型電力ネットワークという発想までは無いと思う。やはり家庭の省エネルギーをきちんとやろうと思ったら,こうした発想が不可欠だと考えています。

――米国の企業は,プロトコルの標準化をはじめています。世界を舞台に,熾烈な競争になるところもありそうですね。

松山氏 だからぼくらも,どんどん早くやりたいと思っている。まずは日本の企業が連携して何かを提案していきたいんです。結局は,「エネルギーオンデマンド」というコンセプトが生き残るかどうかだろう。既にコンセプトの特許の取得などを進めています。プロトコルに関しても,まずはTCP/IPをベースに,その上に利用するQoEnプロトコルとして提案しようと思っています。

 僕自身,こういう話はもっとゆっくり進めたかった。ところが周りが急にワーワーと騒ぎだしたので,スピードアップせざるを得なくなったんです。ちょっと残念ですが,がんばって急いでいきますよ。