Eye-Fi社 Founder兼Chief Product OfficerのYuval Koren氏(手にしているのは従来品,写真は2009年の来日時に撮影)
Eye-Fi社 Founder兼Chief Product OfficerのYuval Koren氏(手にしているのは従来品,写真は2009年の来日時に撮影)
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左は,Eye-Fi社が2010年1月に発表した無線LAN機能付きのSDメモリーカードの新製品「8G Eye-Fi Pro X2」の回路基板。米Marvell Semiconductor社の無線LANチップを採用した。下部にある大きなLSIはフラッシュ・メモリ。は上部左側が新たに開発した制御用LSI「X2 Engine」。右は従来の4Gバイト品。米Atheros Communications社の無線LANチップを採用していた
左は,Eye-Fi社が2010年1月に発表した無線LAN機能付きのSDメモリーカードの新製品「8G Eye-Fi Pro X2」の回路基板。米Marvell Semiconductor社の無線LANチップを採用した。下部にある大きなLSIはフラッシュ・メモリ。は上部左側が新たに開発した制御用LSI「X2 Engine」。右は従来の4Gバイト品。米Atheros Communications社の無線LANチップを採用していた
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 「今回は,カードそのものや,それと連携するWebサービスだけでなく,内蔵する制御用LSIを自社で設計した。従業員30人ほどのベンチャー企業としては,ハードルの高い挑戦だったが,今後の機能拡張性を格段に高めることができた」。

 無線LAN機能付きSDメモリーカード「Eye-Fiカード」を開発する米国のベンチャー企業,Eye-Fi社の創業者でChief Product Officerを務めるYuval Koren氏は,米国時間の2010年1月7日に開幕する「2010 International CES」に向けて発表した新製品に自信を見せた。

 Eye-Fiカードは,SDメモリーカード・スロットに差し込むだけで,デジカメを無線LAN対応にできる。2009年に入り,複数の国内デジタル・カメラ・メーカーによる正式対応が相次いだことで注目を集めている。

ほぼ1年で制御用LSIを新規開発

 今回発表した新製品「8GB Eye-Fi Pro X2」は,記録容量を8Gバイトと従来品の2倍に高めると同時に,IEEE802.11nに対応した無線LAN機能の採用でデータ転送速度を高速化し,通信距離を伸ばすなどの性能向上を実現した。RAW画像の転送や,無線によるパソコンとのアドホック通信などにも初めて対応している。

 こうしたカードの“今の機能”以上にEye-Fi社がこだわったのは,今後の機能拡張性の向上だ。そのために,ほぼ1年をかけて英ARM Ltd.のRISCプロセサ・コアを集積した制御用LSI「X2 Engine」を独自開発した。Webサービスへの転送や電力消費の制御などの機能を備える。

 Eye-Fi社は,ソフトウエア開発ツール(SDK)の提供で,Eye-Fiカードを採用するカメラ・メーカー各社がカード単体にはない独自機能を拡張できる環境を整備している。ただ,従来品では,Webサービスへのファイル転送制御などに無線LANチップに集積されたRISCプロセサ・コアを使っており,ソフトウエアを格納するメモリ容量の制限などが原因で採用メーカーの要望にすべて応えられる状況ではなかった。

 今回,無線LANチップと制御用LSIを分離したことで,例えば,無線LAN機能を使わないときに待機モードに移行できるようになった。これにより,新カードの電力消費を従来品の半分以下にできたという。Eye-Fi社は,今後の機能拡張について詳細を明かしていないが,「用意していたが載せられなかった機能をソフトウエア更新で追加できるようになったことは大きい」(Koren氏)と意気込む。

 例えば,デジカメの液晶画面でスライドショーを表示し,タッチパネル操作で選んだ気に入った写真だけを自動転送する機能や,写真管理サービスなどに正常に送信された写真ファイルを特定のルールに沿って削除し,常にメモリ・カードの空き容量を確保する機能などをソフトウエアの更新で追加していくことを想定しているようだ。

RIA技術でパソコン向けソフトウエアも開発

 制御用LSIと同時進行で,従来はWebサービスだけだった写真管理では,パソコン向けの専用ソフトウエアも新規開発した。米Adobe Systems Inc.のRIA(rich internet application)技術「AIR」を採用し,Eye-Fi社の写真管理サービスや他社の写真共有サービスと連携する。

 「製品の発売から2年間で学んだのは,複数のWebブラウザーに対応したサービスの開発に多くのリソースがかかること。ブラウザー対応に時間をかけるよりは,機能改善に注力した方がユーザーの利点が大きい」(Koren氏)。

 Webサービス側にも新しい機能を追加した。外部のWebサービスからEye-Fiの写真管理サービスで写真を受け取るためのAPIを設けた。これにより,Eye-Fiカードを搭載していない機器からも,Eye-Fi社のWebサービスにアクセスしやすくなった。

 LAN対応の外付けHDD(NAS)などのネットワーク機器を開発するメーカーにも,デジカメ向けとは異なるSDKの提供を始めるなど“Eye-Fiワールド”を広げる取り組みも積極的に進めている。Eye-FiカードやEye-Fi社のWebサービスとの連携機能を搭載したNASなどを周辺機器メーカーに開発してもらう狙いだ。パソコンが起動していなくても,Eye-Fiカードから写真ファイルをNASに直接保存できるような環境を構築できる。2010年中には,Eye-Fi対応のネットワーク機器が登場するという。

 大手カメラ・メーカーとの連携でデジカメ分野のノウハウを貪欲に学びながら,短期間にWebサービスを軸にした写真管理の独自世界の構築を急ぐEye-Fi社。スピード感あふれるベンチャー企業の開発に国内家電メーカーが学ぶ点は多そうだ。