図1◎可視光で見たペルセウス座銀河団。銀河団は,1000個近くの銀河から成り立つ。この図の差し渡しは,約750万光年。
図1◎可視光で見たペルセウス座銀河団。銀河団は,1000個近くの銀河から成り立つ。この図の差し渡しは,約750万光年。
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図2◎X線天文衛星「すざく」。日本で5番目のX線天文衛星で,2005年7月10日に打ち上げられた。
図2◎X線天文衛星「すざく」。日本で5番目のX線天文衛星で,2005年7月10日に打ち上げられた。
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図3◎X線で見たペルセウス座銀河団。X線天文衛星「あすか」が取得したX線画像に,「すざく」で観測した範囲(ピンク色の□で囲んだ部分)を重ねた画像。X線でのみ観測できる高温(1000万〜1億℃)のプラズマが見える。
図3◎X線で見たペルセウス座銀河団。X線天文衛星「あすか」が取得したX線画像に,「すざく」で観測した範囲(ピンク色の□で囲んだ部分)を重ねた画像。X線でのみ観測できる高温(1000万〜1億℃)のプラズマが見える。
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図4◎「すざく」で観測したCrとMnからのX線シグナル。上段は,実際のデータ(黒色の十字で表示した部分)と「CrとMnがない場合に予想されるモデル」(赤色の実線)の比較。下段は,両者の比。
図4◎「すざく」で観測したCrとMnからのX線シグナル。上段は,実際のデータ(黒色の十字で表示した部分)と「CrとMnがない場合に予想されるモデル」(赤色の実線)の比較。下段は,両者の比。
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図5◎太陽(黒い棒グラフ)とペルセウス座銀河団プラズマ(赤色の○)での元素の存在量(水素1個に対する相対比)。
図5◎太陽(黒い棒グラフ)とペルセウス座銀河団プラズマ(赤色の○)での元素の存在量(水素1個に対する相対比)。
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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2009年11月2日,X線天文衛星「すざく」がペルセウス座銀河団(多数の銀河の集団)で大量のクロム(Cr)とマンガン(Mn)を発見したと発表した。銀河の外(銀河間空間)から検出するのは,世界で初めて。宇宙の元素合成の歴史を探る上での貴重な手がかりになるという。

 JAXAによると,これまでの研究で,銀河団にはX線でのみ観測可能な高温のプラズマが大量に存在することが分かっていた。そこでJAXAは,高い感度とエネルギ分解能を持つ同衛星を用いて,地球から2億5000万光年かなたにあるペルセウス座銀河団を,延べ8日にわたって観測した(図1~3)。その結果,ネオンやマグネシウム,ケイ素,硫黄,鉄(Fe)に加え,微量な元素であるアルゴンやカルシウム,Cr,Mn,ニッケル(Ni)からのX線を検出できた。これらのX線の強さから各元素の存在量を分析したところ,銀河団プラズマの中にも,太陽での存在量の半分程度の割合でCrやMnが存在することが分かったとする(図4,5)。

 CrやMnは,FeやNiとともに核融合爆発型(Ia型)の超新星爆発の中で作られると考えられる。従って今回の観測結果は,数億年から数十億年にわたる銀河団の歴史の中で大量の超新星爆発が起こり,そこで作られた元素が広い領域にわたってかき混ぜられたことを示すという。

 すべての元素は,宇宙の進化の中でいろいろな場所を流転する。具体的には,ガスが集まって恒星や惑星になり,恒星は進化の果ての爆発で元素を合成したり,まき散らしたりする。さらに,それらの元素の一部は,銀河の外(銀河間空間)にも飛び出す。多数の銀河が隣接している銀河間空間には,高温のガスが銀河団プラズマとして存在しており,このプラズマの総量は,銀河の中の星の総量を超える。銀河団プラズマでの微量元素成分の割合を特定できるようになったことで,今後同様の観測により,宇宙における元素量の測定や,それを通じた宇宙の元素合成の歴史を探ることができると考えられる。