米IBM Corp.,Distinguished Engineer,Cell/B.E. Chief Scientist,Systems and Technology GroupのPeter Hofstee氏
米IBM Corp.,Distinguished Engineer,Cell/B.E. Chief Scientist,Systems and Technology GroupのPeter Hofstee氏
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 「プレイステーション3」の心臓部として開発された「Cell Broadband Engine」。その設計に携わった米IBM Corp.,Distinguished Engineer,Cell/B.E. Chief Scientist,Systems and Technology GroupのPeter Hofstee氏が来日し,本誌記者とのインタビューに応じた。同氏は「マルチコアの次の技術として,汎用的なコアと特定目的に特化したコアのハイブリッドなマルチコアが主流となり,さらにその先にはSoCのようなアーキテクチャになっていく」としている。今後のマイクロプロセサの方向性について聞いた。

――単純にハイブリッドと聞くと,例えば米Intel Corp.や米Advanced Micro Devices,Inc.などがグラフィックス・プロセサ(GPU)をマイクロプロセサに混載するのとあまり変わらないように思うが。
Hofstee氏 基本的なアイデアとしてはそれで正しい。ただし,現在のGPUのように,入出力バスを介する形のアクセラレータでは,データをやり取りする際のオーバヘッドが大きい。

 そこで重要になるのが,“Coherently Attached”という考え方だ。これはCellに導入したもので,SPE(synergestic processing element)やメイン・プロセサであるPPEが,コヒーレントな形で一部のデータを共有している。これにより,プロセサ間でデータをやり取りする際のオーバヘッドを低減している。こうした設計上の工夫を施したものがハイブリッド型だと言える。

――アドオン的なアクセラレータだとすると,個々の違いが大きく,ソフトウエア開発の負担が大きくなる。
Hofstee氏 その通りだ。だから,このようなアーキテクチャを採用する場合には,ソフトウエアが重要になる。ハイブリッド・アーキテクチャとして追加されたアクセラレータの違いを吸収するような,ソフトウエアのフレームワークが必要になるだろう。その実現は難しいが,可能性は十分ある。

 例えばGPUで始まっているOpenCLのような取り組みは,その第一歩と言えるだろう。OpenCLは,OpenGLがグラフィックス・アプリケーションをポータブルにしたように,GPUを利用した処理をポータブルにするためのものだ。

――ハイブリッド型のアーキテクチャを採用した際,OSはどのような姿になるのか。
Hofstee氏 CellでOSを実装した際には,普通のOSとして開発者に見えるように配慮した。通常はメインのプロセサのスレッドだけが動作し,SPEのスレッドはオフの状態になる。そこでプログラムを実行させると,OSがSPEのスレッドを起動するという形だ。

 既存のOSは,それで25年間快適に使われてきたものだ。だから,開発者から見てできるだけ変わらないものとして接することができるようにしたかった。加えて,SPEはローカルに保存するメモリがあるので,コードやデータを明示的に決定できたという面もある。

――ハイブリッド型の先がSoCやASICと言われると,少々とまどう。むしろ半導体が巨大になりすぎて,SoCやASICのビジネスは危うくなっている。
Hofstee氏 確かに現実に目を向けるとその通りだが,論理的な結論としてこうなるという話だ。今はASICなどを作っても,2年も経過したら時代遅れになってしまう。技術が常に進歩してきたからだ。固定的な技術が不利で,汎用的なプロセサにとって有利だった。

 だが必ずしもそのトレンドが続くとは限らない。私がSoC/ASIC型が登場するとしているのは30年以上先であり,その頃にはクロック周波数の向上やトランジスタ数の増加が見込めなくなっている可能性は十分にある。こうなると,汎用的なプロセサでは進化が止まってしまう。そこでより高い性能を求めるのであれば,回路技術を工夫して特定用途の処理に特化した方が有利になる,ということだ。