『戦慄迷宮3D』  10月17日(土)東京・新宿バルト9 大阪・梅田ブルク7 ほか全国ロードショー。(C) ショック・ラビリンス・フィルム・コミッティ2009
『戦慄迷宮3D』 10月17日(土)東京・新宿バルト9 大阪・梅田ブルク7 ほか全国ロードショー。(C) ショック・ラビリンス・フィルム・コミッティ2009
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撮影風景 (C) ショック・ラビリンス・フィルム・コミッティ2009
撮影風景 (C) ショック・ラビリンス・フィルム・コミッティ2009
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インタビュー中の宇井氏
インタビュー中の宇井氏
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IMAGICAの灰原氏(左)と宇井氏。
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 2009年10月17日,「呪怨」などホラー映画で知られる清水崇監督の新作で,日本映画としては初めてのフル3Dの実写長編映画「戦慄迷宮3D」が国内約80スクリーン以上の3D対応映画館限定で公開される。約1時間半の上映時間,すべてのシーンが3Dで撮影されているという点は,最近相次いで日本に上陸しているハリウッド系3D映画でも珍しい。

 この作品は,登場人物がある迷宮に足を踏み入れる話で,試写を見た限りでは,それまでの清水崇監督の作品とは趣きがやや違い,首が飛んだり血しぶきが飛ぶことがない。ホラーというよりむしろ,「スリラー」あるいは「ダーク・ファンタジー」と言える作品になっている。9月11日には第66回ヴェネチア国際映画祭でも5分ほどに短縮した作品が上映され,「上映後,各国のバイヤーの争奪戦になった」(戦慄迷宮3Dのプロデューサで,アスミック・エース エンタテインメント 映画制作事業本部 GMの谷島正之氏)という。

 戦慄迷宮3Dの制作の経緯や3D作品としての位置付けについて,技術的な側面を中心に,撮影用3Dカメラを開発し,今回のカメラマンも務めた宇井忠幸氏,3Dテクニカル・アドバイザーとして製作に参加したIMAGICAの灰原光晴氏,そしてプロデューサの谷島氏に話を聞いた。

――そもそもなぜ今回の作品を3Dにしたのか。また,映画制作で気をつけたことは何か。試写会で見た印象では,飛び出しがそれほど強くなかったが,なにか理由があるか。

谷島氏 映画を見てくれる人が面白いと思う作品を作ろうとした。気をつけたのは,3Dであること自体が面白いわけではないということ。飛び出す映画を作るんだといって,そこに向かってストーリーを組み立てると失敗する。(あくまで面白いストーリーが先で)面白い作品が飛び出すからこそ,それを見てテンションが上がる。3Dは視聴者の感動や没入感を高める増幅装置という位置付けだ。その手段と目的を取り違えないようにした。実際,今回は脚本の段階で海外にも評価され,ヴェネチア映画祭の時点で米国を含む約45カ国・地域での上映が決まった。清水監督はすでに米国では有名だが,今回は清水監督の名前より,作品の魅力で売れたと思っている。その後も上映先は増えて2010年には約60カ国・地域で公開される見通しになった。3D対応映画館のない地域もあるので,すべて3Dで上映というわけにはいかないが。

宇井氏 やはり,お客は3Dを見に来るのではなく,面白いストーリーを見に来るんだ。その意味で,ストーリーにそぐわない,あり得ないような映像の飛び出しはしないようにした。ただし,最近よく言われる「3Dは奥行き感がすべて」というのも少し違うと思う。奥行き感と飛び出しが,良い加減に組み合わされているのがいい。

 3Dが目的ではないので,ストーリーから言えば当初は2Dの映像でよいのではないかというシーンもあった。ところが,撮影現場で3D映像を確認していると,思った以上に3D映像に違和感がないことに気づき,これなら全編3Dでよいのではないかということになった。映像の確認は数十型の小さなディスプレイで行ったが,実際には6mほどの映画用スクリーンに合わせて効果を計算し,映像を作っている。3Dの視覚効果はすべてが計算通りにいくとは限らないが,概ねうまくいったはずだ。

――今回は自作の3Dカメラを使ったと聞いたが,それはなぜか。

宇井氏 3D映像は,20年以上前から撮り続けてきた。多くが20分ぐらいの短編で,今回のような長編はなかったが。そこではその都度,3Dカメラを自作してきた。レンズを2枚組み合わせて1台のカメラにしたり,ハーフ・ミラーを利用したカメラもあった。今回はデジタル映画ということで,毎秒24コマのカナダ製のHD映像が撮れるカメラを2台,組み合わせて製作した。

 3Dカメラの製作期間は1カ月とない。今年の4月に打ち合わせをしてから,カメラが出来たのは5月半ばのクランクインの2日前。旋盤加工から何から,めっき以外は我々自身で全部やった。出来としては70点ぐらいだ。元のカナダ製のカメラが1台数百万円と高かったので,3Dカメラは実際の撮影用と,故障時の予備の2組だけ。基本的には1台を,カメラの幅や向きをシーンに応じて微調整し,(視聴者に見える3Dの虚像の位置となる)「コンバージェンス」などを自在に変えられるようにして使いまわした。今回はディスプレイですぐ3D映像を確認できたが,それがなくても経験から,どのように撮れば望む映像ができるかは分かっている。こうした撮影のノウハウは,3D映像の制作には重要になるだろう。

 カメラの製作を(ソニーやパナソニックといった)メーカーに頼まないのは,自分や助手にとっての使いやすさと必要に応じて仕様を変更できることが最重要だから。例えば今回は,登場人物が自動車に乗っているシーンがある。既存の3Dカメラは幅や奥行きがそれぞれ1m近くもあってとても車内に入らない。撮影のために自動車を切ってくれるかと思ったが,ダメだと言われた。それで仕方なく,せっかく作った3Dカメラを再度バラして車内に持ち込めるようにした。もともと,片手で持てるぐらいに小型だったが,それでも車内に入れるためには大きすぎたからだ。

――3D映画,3D映像は今後,どんどん広まっていくと思うか。

灰原氏 すべての映像が3Dになるとは思わない。やはり3D化に向くものと必ずしも3Dである必要がないものがあるからだ。IMAGICAとしては実は日本では,映像の3D化はハリウッド映画のほかには映画の予告編から序々に進むと思っていた。だから今春,今回の話を聞いたときは正直驚いた。