四国総合研究所の中西氏
四国総合研究所の中西氏
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現在,通信機能の付加などによって高機能化した電力メーター,いわゆる「スマートメーター」に関する取り組みが,米国を中心に活発化している。ただし,このようなメーターの高機能化や,宅内機器の制御といった発想は,最近誕生したコンセプトではない。国内では以前から,同様の取り組みが行われていた。その代表例が,四国電力が1990年代後半から取り組んでいた「OpenPLANET」である。約1000件のユーザーを対象とした大規模実証実験まで行いながらも,残念ながら当初の目標だった一般家庭向け付加価値サービスの実運用には至らなかった。四国電力でOpenPLANETプロジェクトを主導的に進めていた中西美一氏(現在は四国総合研究所 電子技術部 副主席研究員)に,話を聞いた。(聞き手=日経エレクトロニクス,写真=守口 王仁)


――ここ最近,米国では「スマートグリッド」というキーワードの下,通信技術の積極活用による送電網の監視や,スマートメーターの導入による電力管理といった話題が多く出ている。宅内機器を遠隔制御して,電力消費量を削減する「DSM(demand side management)」への期待も出ている。こうしたコンセプトは,四国電力が1990年代後半から提唱した「OpenPLANET」に,非常に似通っている。現在の世の中の動きを,率直にどう見ているか。

中西氏 今,米国で活発な取り組みが進んでいる「スマートグリッド」と,日本で10年ほど前から始まっていた取り組みは,性質が異なると思っている。


日本と米国は違う


 米国の場合は送配電網の整備が遅れており,その脆弱な部分を情報技術によって補うというのが主旨だ。加えて太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが増加し,また今後は電気自動車の登場で送配電網に電池がつながるようになる。こうした変化に対応しようというのが,米国のスマートグリッドだと言える。一方,日本の場合は既にこうした事態を見越し,送配電網の整備を進めてきた。そのため,短期的にはそれほど必要性は感じていない。日本の送配電網は米国に比べてゆとりがあり,緊急な必要性はないという印象だ。

 我々がOpenPLANETで10年以上前に取り組んでいた目的は,まずは自動検針などによる電力事業の効率化である。ただ,これだけではインフラ投資が回収できないため,このインフラを活用して電力以外のサービスを提供することを志向した。つまり,「電力+α」のサービスである。


――四国電力の「OpenPLANET」は,どのようなことを目指していたのか。

中西氏 電力会社は,ユーザーに対して電気を供給している。しかし,それはあくまでもメーターまでである。実際に電気を使うのは,家庭の電化製品だ。我々の夢は,電気が最終的にどのように利用されるのか,その部分まで関与したいということである。お客様に最終的に使ってもらう,電気を利用する末端まで何らかの関与をしたい。その一形態が,DSM(demand side management)だった。


DSMだけではユーザー・メリットが乏しい


ただしDSMというのは,ユーザーにとってほとんどメリットがない。つまり,DSMだけでユーザーからサービス料を徴収するといったビジネスモデルが成立しないことは,当時から重々分かっていた。そのため,様々なサービスと組み合わせることを考えた。スマートメーターのプラットフォームを使い,DSM以外の用途に展開するということである。例えば電子メールのやりとりだったり,在宅介護の情報掲示板だったり,家庭のセキュリティ,高齢者の見守り,といったものである。

 当時は電力サービスの規制緩和ということがあり,電力事業者も様々なサービスを考案する必要があった。四国電力の中でも「電力+情報」というコンセプトが盛んに議論された。こうした発想から生まれたのが,電力網を介して様々なサービスをユーザーに提供する「OpenPLANET」という発想であり,そのためのゲートウエイ役を果たすのが高機能型メーターだった。