液晶パネルに代表されるフラットパネル・ディスプレイ(FPD)は,ブラウン管(CRT)が抱えていた大型・高精細化の制約を打ち破り,大画面・HD(high definition)対応テレビの家庭への普及を牽引してきた。ディスプレイ技術の進化は止まらない。次は,“画面”や“枠”という制約を取り払い,生活空間のあらゆる平面をディスプレイにしていく。「どこでもディスプレイ」の夢の実現だ。

 この「どこでもディスプレイ」が実現する“ミライ映像”の姿は,例えば,米Microsoft Office Labsが考える将来ビジョンを描いたビデオ「Productivity Future Vision」に見ることができる。このビデオは,2019年のIT(情報通信)環境に関するもので,オフィスや社会環境のあらゆる場所にさまざまなディスプレイを散りばめた世界が描かれている(日経マイクロデバイス,2009年5月号を参照)。

Microsoftの将来ビデオに登場する10年後のオフィス環境
ユーザー正面のディスプレイ,操作用ボードなどは,すべて透明ディスプレイとセンサーを組み合わせたデバイスで構成している。また,窓ガラスを大面積の透明ディスプレイにして,補助的な情報表示に用いている。米Microsoft Corp.のデータ。(日経マイクロデバイス2009年5月号,p.27より)
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 さて,こうした「どこでもディスプレイ」の夢をかなえる表示技術は,どこにあるのだろうか。筆者が期待する技術の一つが,プロジェクタ(投射型ディスプレイ)技術である。プロジェクタの特徴は,映像装置と表示部が別々に分かれていることだ。生活空間のあらゆる平面をスクリーンとして,すぐに使うことができる。オフィスや自宅の机や壁が,映像を投射するだけで瞬時にスクリーンとなる。表示サイズも自由自在だ。布団のような柔らかいモノにも,簡単に映像を映し出すことができる。

プロジェクタは表示手法も多種多様
住友スリーエムの樹脂シート「Vikuiti」を使ったデジタル・サイネージ。樹脂シートを自由な大きさ,形状に切り出し,ガラス窓などに張って映像を投影している。日経マイクロデバイスが撮影。
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 映像装置と表示部が一体だと,こうはいかない。ディスプレイという“素材”で机や壁を作り込まなければならない上に,あらかじめ組み込まれた“ディスプレイ素材”によって表示サイズは制約を受ける。フレキシブル・ディスプレイの開発も進んでいるが,布や紙と全く同じように扱えるようにするためには,まだ多くの技術課題がある。

 リアプロ・テレビ市場の縮小の影響もあり,プロジェクタ技術は停滞しているようにも感じられるが,研究開発は着実に進展している。近年では,複雑な起伏や模様のある壁面に対して,歪みや色ムラのない映像投影が可能になりつつある。このような「どこでもディスプレイ」を目指したプロジェクタ技術の研究開発に取り組んでいるのが,大阪大学 サイバーメディアセンター情報メディア教育研究部門 准教授の清川清氏だ。

 同氏は,「FPD International 2009 フォーラム」(10月28~30日,パシフィコ横浜)のセッションF-23「ミライ映像」(10月29日(木)9:30~12:30)で,「どこでもディスプレイ」を目指したプロジェクタ研究開発の最前線を紹介する。同氏はまた,プロジェクタとは別の“ウェアラブル”という観点で有力候補とされているヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)技術の最新動向についても解説する予定である。

 “画面”や“枠”という制約を取り払った「どこでもディスプレイ」の候補技術の提案は,これだけにとどまらない。透明ディスプレイ,超高精細による高臨場感ディスプレイ,自然でリアルな立体ディスプレイなど,さまざまな技術提案が目白押しだ。今回のセッションでは,こうした技術についても,第一線の技術者・研究者が解説する。