情報システム総研は,受注から調達,生産,出荷までを一元的に扱うことできめ細かな生産管理が可能になり,仕様変更や在庫削減などが容易になる手法を開発,方式設計と基本モデルについて2009年9月14日に開かれた情報処理学会「第109回 情報システムと社会環境研究発表会」で発表した。少量多品種,個別受注に向くほか,作業が下流に向かって収束していく合流型組み立て工程と,素材系のプロセスのように下流に行くにしたがって枝分かれしていく分岐型工程の混合生産においても,仕様変更や在庫削減などを実施しやすいという利点がある。これらは従来のMRP(material requirements planningあるいはmanufacturing resources planning)では容易に実現できなかった。すでに金属加工メーカーや石油化学メーカーが,この手法の原型を利用している(実装はエクサが担当)。今回の手法はこの発展型に当たる。

図1 流動数グラフの例
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 受注/調達/生産/出荷(出庫)あるいは請求/入金など企業活動を一元的に管理するために,今回の手法では在庫管理で使われる流動数グラフを内部的に利用する(図1)。流動数グラフとは,物の流れの量を把握したいときに用いるグラフ。例えば,横軸が時間,縦軸が部品の累積の生産量と消費量のグラフを作る。時間とともに累積量が増えていくグラフになる。流動表グラフを使うときは通常は過去の生産量と消費量を示すが,今回は今後の予定も扱えるように拡張した点が新しいという。

時間軸上でシンプルに記録,在庫を“フロー”としてとらえる

 一般に,従来の在庫管理は生産管理から切り離されていることがよくある。例えば,過去の在庫のトレンドを基に未来を推定し,足りない分を発注する,といったケースである。生産の予定が分からず大量の在庫を抱えたり,逆に欠品が生じたりすることが少なくない。また,実在庫や引き当て済み在庫,有効在庫などと在庫を色分けし,管理が複雑になっていることが多い。

 これに対し今回の方式では,受注や調達,製造,出荷などを過去から未来までの時間軸上で統合して管理する。すなわち,「注文」を未来に予定されている出庫(予定の出庫),「調達」を未来に予定されている入庫(予定の入庫)としてとらえる。同様に,「製造指示」は,部品についての予定の出庫,製品についての予定の入庫ととらえる。これによって,過去,現在はもとより,未来の任意の時点における在庫量が算出できる。もちろん,注文変動や生産変動(製造の失敗や遅れ)により予定は常に変動する。その変動の影響をコントロールすることが生産管理の要諦だが,今回のように受注から出荷までを統合して管理することで注文の進度が予測を伴って「見える化」され,コントロールが容易になる。

図2 児玉公信氏
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 部品や製品の「在庫」は「累積生産量」と「累積出庫量(あるいは累積消費量)」の差で表すことができるので,在庫という管理手段を設けずに「調達」や「生産」といった予定のイベントを記録するだけでよい。受注するときは,出庫予定日の在庫量(その時点までの累積生産量-累積出庫量)が注文に相当する出庫量を満足していれば,予定の出庫として記録する。出庫量を満足していなければ受注しないか,出庫量を満足する時点まで納期を調整して,予定の出庫として記録する。あるいはいったんマイナス在庫で受注しておいて,それを穴埋めするように調達指示,製造指示を出すという方法もある。こうすることで,実在庫をほとんどもたないビジネスができる。また,製造で使用する設備や治工具も,在庫と同様に時間軸で変化する「残能力」として扱える。これは,「在庫をストックではなく,フローとしてとらえる」(情報システム総研取締役副社長の児玉公信氏,図2)ことにほかならない。

 今回の手法は,組み立て工程と分岐工程のどちらの生産管理も考慮している。例えばある企業では,数十m長の線材を組み立て型の生産管理ツールに合わせるために,5cmや10cmといった長さの部品としてあらかじめ切断して在庫として管理していた。今回の生産管理手法では,線材を必要なときに必要な量だけ切断して現場で使用量を記録する一方,その残量も把握しておくという形で管理できる。このため,顧客の個別の要請(例えば長さが7cm)に応えることも容易になる。代用可能な部品があれば,それを使用するように変更・登録できる。こうして,最適な部品を無駄なく利用できるようにした。また現物管理もできるので,製品に使用している部品ごとの品質,製造履歴,使用原料などを管理するトレーサビリティや,化学物質や製造時の副産物,エネルギー消費量などを管理する環境規制への対応が容易になる(児玉,「生産システムの革命[?],『IEレビュー』,vol.50,no.3,pp.59-64,Aug.2009)。

 部材や設備などの引き当て(使用予定の記録)の際,数量管理(予約)や個体管理(個々の部品ごとの識別)を実施しやすいので,少量の個別受注製品の製造指示/納入指示や,注文の変更への対応,上流工程でのまとめ生産と下流工程の個別生産の連携が容易になる。在庫の時間的な推移を未来にわたって把握しながら,中間品の引き当てが容易になり滞留在庫を減らすことができる。

 すでに,石油化学メーカーの工場でこの手法の原型を利用している。この工場では,連続運転を指向しつつ,生産変動の多い分岐型生産と組み立て型生産を混合しており,これまで在庫や納期予測のシミュレーションが困難で,従来はベテランしか生産計画を最適化できなかった。今回の手法を利用することによってシミュレーションが可能になり,経験があまりない若手でも生産計画の最適化ができるようになって滞留在庫を減らすことができたという。

 金属加工メーカーでは,中間品を注文に合わせて切断する分岐型の生産が不可欠だった。そこで今回の手法を利用して中間品を動的に引き当てられるようにし,現場の判断で自由に切断しやすくした。これによって,納期の短縮・順守と在庫削減,現品管理とトレーサビリティを達成したという。

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