日産自動車 常務の篠原稔氏
日産自動車 常務の篠原稔氏
[画像のクリックで拡大表示]

 AT Internatinal 2009の幕開けを飾る基調講演の壇に立ったのは,日産自動車 常務の篠原稔氏。「クルマの電動化がもたらすもの ~新しい技術、変わる社会~」と題して,電気自動車(EV)に関する同社の取り組みと将来展望を語った。同社は8月上旬に新型の電気自動車を公開し,2010年度に日米で発売する予定である。

 同氏まず,数ある環境対応車のうち電気自動車に力を入れる理由を語った。背景にあるのはCO2排出量の長期削減目標で,2050年に所望の値を実現するにはクルマからの排出量を現在の10%程度まで下げなければならないと指摘。そのためには,ガソリン車やハイブリッド車の改良だけでは難しく,燃料電池車や電気自動車の普及を広げていく必要があるとした。中でも電気は様々な手段でつくることができるため,燃料源として適していると語った。

 次に,これまでの電気自動車の歴史を簡単に振り返った。最初の電気自動車は19世紀につくられ,1900年には米国で4000台が普及して自動車全体に占めるシェアは40%に達していたという。ところがT型フォードの登場などで,次第に存在感が薄れていく。その後も,戦後の日本でガソリン不足の折に登場したり,米国カリフォルニア州の環境規制で脚光を浴びたりしたものの,インフラの整備やガソリン車の改良が進んだため,電気自動車が主役になることはなかった。

 ここに来て再び注目を集めているのは,環境に対する意識の高まりに加えて,電池の技術の発達が大きいとした。既存の鉛蓄電池と比べてエネルギー密度が高いNi水素電池とLiイオン電池の技術が,1990年代以降に一気に進化した。自動車に必要なエネルギー容量を20kWhとすると,それを鉛蓄電池に蓄えるには1600Lと,ガソリンタンク何十個分もの体積が必要だった。これに対しLiイオン電池では,2000年ごろに400L,現在は200Lと,ガソリンタンク3~4個分まで小さくなり,自動車への搭載が現実的になってきたという。

 これを受けて同社は,新型の電気自動車を8月に公開し,2010年度に日米で発売する。4~5名乗りのコンパクトクラスのクルマで,航続距離は160km以上とした。ラミネート型のLiイオン電池を搭載し,高応答型のモーターを使うという。篠原氏は,電気自動車は「マスマーケットを狙わないと意味がない」と語り,2012年以降に大量生産する意向を示した。