図 チタン系金属ガラス製の人工指関節プロトタイプ。上側の鞍馬形状が関節表面部,下側の円柱形状が挿入部(図は東北大金研が提供)
図 チタン系金属ガラス製の人工指関節プロトタイプ。上側の鞍馬形状が関節表面部,下側の円柱形状が挿入部(図は東北大金研が提供)
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 東北大学,東京工業大学,大阪大学は共同で,生体に適したチタン系金属ガラスを開発,人工指関節のプロトタイプを試作した(図)。東北大金属材料研究所が生体材料向けにチタン系金属ガラスの組成などを最適化した。この金属ガラスを使って,東工大応用セラミックス材料研究所が骨と強固な接合膜をつくる生体活性膜の表面処理技術を,大阪大接合科学研究所が強固な接合膜をつくりやすくする表面加工法を開発した。これらの研究開発成果を基に,人工指関節プロトタイプを試作し,金属ガラスと骨のアパタイトなどが強固に接合することを確認した。

 東北大金研が組成を最適化したのは,強さがチタンの約3倍高く,弾性率が骨に近いチタン系金属ガラス(Ti40Zr10Cu36Pd14、チタン・ジルコニウム・銅・パラジウム,各数字は原子%)。従来,人工関節に利用されてきたステンレス鋼が含むニッケル(Ni)を含まないために「発ガン性がないと考えられる」という。また,人工関節に利用されているチタン合金に比べて「耐摩耗性が高いので摺動による摩耗粉が派生しない,弾性率が骨に近いので変形や骨折しにくいなどの利点がある」としている。さらに金属ガラスは凝固時に体積収縮がないので,ニアネットシェイプできる成形加工性を持つと説明する。

 東工大応用セラ研は,人工指関節の下側を構成する円柱形状の挿入部表面に「ナノサイズのメッシュ状の生体活性膜を設ける表面処理技術を世界で初めて開発した」(松下伸広准教授)。従来の高温・高圧環境下での水熱合成法に,電圧などを加える電気化学処理を組み合わせることで反応性を大幅に高め,チタン系金属ガラス表面に非晶質(アモルファス)状の酸化チタン層を設けることに成功した。詳細には「非晶質酸化チタン層の内部は酸化層の組成が少し異なる中間層を設けて,金属とセラミックスの接合性を高めている」という。この酸化チタン層の上に骨の主成分であるアパタイトが覆うことで,人工指関節と骨が強固に接合する仕組みだ。これによって,従来は金属とアパタイトがなかなか接合しなかった問題をクリアするメドをつけた。

 大阪大接合研は,人工指関節の挿入部表面にレーザーによる表面加工を施し,自己組織化によってナノ微細周期構造をつくる要素技術の開発に成功した。自己組織化とは,レーザー照射によって表面のエネルギーを活性させると,自然に周期構造をつくる現象だ。このナノ微細周期構造を持つ表面に,生体活性化膜を設ける表面処理を施す。指の骨に挿入されかん合する挿入部表面にアパタイト層ができるため,骨との接合が強固になることを確認したという。

 今回のチタン系金属ガラス製の人工指関節プロトタイプの研究開発では現時点で,論文発表70件以上,口頭発表40件以上,特許出願20件以上と,多数の研究開発成果が生まれたという。基本特許は3研究所が連携して出願した「生体活性化材料」(出願番号は特願2007-232224)と「金属ガラス生体活性化および生体活性化金属材料」(同 特願2007-232225)である。

 本研究開発は,東北大金研と東工大応用セラ研,大阪大接合研の材料系3研究所が全国共同利用研究所連携プロジェクトとして「金属ガラス・無機材料接合開発共同研究プロジェクト」として実施した研究開発成果の一つである。この連携プロジェクトは平成17年度(2005年度)から5年間実施され,平成21年度で終了する計画だ。