2007年に発表したベンゾジフラン誘導体(左),今回開発した両極性CZBDFの構造
2007年に発表したベンゾジフラン誘導体(左),今回開発した両極性CZBDFの構造
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中間層に色素ドーピングをしたホモ接合有機EL素子の電圧-外部量子効率特性(左グラフ)および素子の発光の様子(右下写真)
中間層に色素ドーピングをしたホモ接合有機EL素子の電圧-外部量子効率特性(左グラフ)および素子の発光の様子(右下写真)
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 東京大学および科学技術振興機構(JST)らの研究グループは,非晶質物質として「最高レベル」(同研究グループ)の電荷移動度を示す両極性有機半導体材料を開発した(ニュース・リリース)。

 この両極性材料は「CZBDF」と呼ばれ,同研究グループが2007年に発表した酸素原子を含む縮環π電子共役系化合物である「ベンゾジフラン」を母核とする誘導体を基に開発した。ベンゾジフラン誘導体は,非晶質薄膜で高いホール移動度を持つp型半導体材料である。今回,このベンゾジフラン誘導体の「アミン」部位を「カルバゾール」に置換することで,高い電荷移動度を示す両極性材料CZBDFを開発したという。同時にCZBDFを用いてホモ接合型の有機EL素子を作製し,蛍光とリン光の両方を用いたEL発光ならびに青,緑,赤の3原色EL発光に成功したとする。 

 CZBDFの非晶質薄膜の電荷移動度は,ホールが3.7×10-3cm2/Vs,電子が4.4×10-3cm2/Vsである。両電荷とも移動度が高く,バランス良い値を示したという。これらは,飛行時間(TOF:Time Of Flight) 法により測定した(電界強度2.5×105V/cm時)。

 さらに研究グループは,開発した両極性材料CZBDFを用いて,ホモ接合型有機EL素子を真空蒸着法で作成した。具体的には,ガラス基板上のITO(indium tin oxide)を陽極とし,その上に順次,厚さ150~200nmの有機薄膜,Al金属(陰極)を真空蒸着により形成した。

 この有機薄膜は,CZBDFを単一のホスト材料として,陽極から30nmの範囲は,無機酸化剤であるV2O5(五酸化バナジウム)との共蒸着によりp型ドーピングを行った。一方,陰極から20nmの範囲は,還元剤(金属セシウム)との共蒸着によるn型ドーピングを施した。これにより,電極からCZBDFへの電荷注入および電荷輸送を容易にしたとする。

 酸化剤や還元剤をドープしないい中間層(厚さ50~100nm)には,青色や緑色蛍光色素,または赤色リン光色素をそれぞれドープすることで,3原色発光を実現した。緑色蛍光素子に関しては,輝度6万cd/m2時に4.2%と,高い外部量子効率を示したという。

 今回作製した有機EL素子が3原色発光ならびに高効率発光を示したのは,CZBDFの持つ以下の性質が影響したと考えられるという。(1)高バランスかつ高移動度を持つ両極性であること,(2)HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)とLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)間のエネルギー差が十分大きい(3eV程度)のワイドギャップ半導体材料であること,(3)発光色素に効果的に電荷を閉じこめることが可能なこと,の三つである。

 有機EL素子は,5~6種類の異なる材料の有機薄膜を積層したヘテロ接合構造から成るタイプが主流であった。東大らの研究グループは,単純なホモ接合型有機EL素子を利用して,3原色発光や高効率発光が実現できたことで,低コスト・高効率の有機ELディスプレイや照明の開発につながると期待する。また有機ELと同様の多層構造を持つ有機薄膜太陽電池などへの展開も視野に入れるという。

 今回の成果は2009年5月25日にドイツの科学雑誌「Advanced Materials」のオンライン版で公開された。