図1 講演する中村氏
図1 講演する中村氏
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図2 各種光源の発光効率の推移
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図3  「μCone」を形成して光取り出し効率を高める
図3  「μCone」を形成して光取り出し効率を高める
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図4 光励起で発振波長514nmのレーザ光を確認
図4 光励起で発振波長514nmのレーザ光を確認
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 東京理科大学は,同大学 総合研究機構 「先端デバイス研究部門」の設立に伴い,記念講演会を2009年5月15日に開催した。同講演では,「窒化物半導体系 発光デバイスの現状」と題し,米University of California,Santa Barbara校(UCSB)教授の中村修二氏が登壇,同氏らのグループによる研究成果などを披露した(図1)。LEDや半導体レーザといった発光素子を始め,太陽電池など,広範囲にわたった。

 LEDに関しては,「理論的には,白色LEDの発光効率は300lm/Wにいくはず」と,今後も発光効率向上が見込めることを示唆した(図2)。中村氏は発光効率向上の手段の例として,外部量子効率,あるいは内部量子効率を高める手法を紹介した。

 外部量子効率を高める方法として紹介したのは,LED素子のn型GaN層の上面に「μCone」と呼ぶ突起物を複数個形成する手法である(図3)。窒素面をエッチングして実現するという。これにより,LED素子の内部で乱反射して外部へと取り出しにくかった光を,効率良く取り出せるとする。この手法は既に2003年に特許出願し2004年には論文として発表しており,「現在ほとんどのメーカーが利用しているはず」(中村氏)という。

いよいよ緑色半導体レーザの実現も視野に

 一方,内部量子効率を高める方法として紹介したのが,GaN結晶の「非極性面」,あるいは「半極性面」と呼ばれる面を利用してLED素子を作製する手法である。現在販売されているLED素子では,GaN結晶の極性面である「c面」を利用している。半極性面や非極性面を利用することで,内部量子効率を低下させる要因となっている「ピエゾ電界」の影響を弱めることができる。

 これにより,青色LEDや青紫色半導体レーザで利用されているInGaN系発光素子を長波長化しやすくなる。現在のInGaN系発光素子では,青色の波長帯から緑色の波長帯へと長波長化が難しい。そのため,緑色半導体レーザは現在のところ存在しない。

 非極性面や半極性面を利用することで緑色半導体レーザの実現が近づくという。光励起ながら,既に514nmや525nmのレーザ光を確認済みとする(図4)。電流注入でもレーザ発振する可能性があるという。つまり,緑色半導体レーザの可能性が見えてきたことになる。

 ただし,この非極性面,半極性面を利用した発光素子の大きな課題は,半極性面や非極性面のGaN基板が非常に小さいこと。そこで,UCSBと三菱化学は,水晶を製造する水熱合成法を応用した「アモノサーマル法」を利用した,大型GaN結晶の製造に取り組んでいる。この結晶から,通常のc面のGaN基板はもちろん,半極性面や非極性面のGaN基板を切り出すことができる。

 このほか,InGaNを利用した太陽電池の研究開発も進めている。具体的な成果については明かさなかったが,「非常に良いものができている。期待して欲しい」と,自信を見せた。