課題の一つは,新ライセンス発行・管理機関によるライセンス条件であり,詳細な検討はこれからだ。ただし,現行のB-CASとのサイマルクリプトになることから,もしB-CASの利用より厳しい条件を設定すれば誰も使わない。検討委員会における報告でも,「技術の漏えいがあったとしても,故意と過失は区別すべき」など,メーカー側に過度な負担を強いる内容にしない方針であることが報告されている。

 普及を左右するのは,3波共用機の行方である。これは,各テレビ・メーカーの製品企画によるところになる。有料放送の視聴にはB-CASカードは必須であり,かつ同カードで地上放送も対応できる。つまり,新方式への対応は不要である。その一方で,新方式を利用すれば,たとえユーザーがカードを紛失しようが,カードが故障しようが地上デジタル放送は視聴できる利点もある。

 無料のBSデジタル放送事業者が新方式を組み合わせたサイマルクリプトに踏み切るかどうか,で大きく状況は変わる。仮に,そうなった場合,新方式へ対応した受信機だと,B-CASカード無しでも多くの放送が視聴できる。B-CASカードの同梱を継続するのか,などがビジネスモデルを含めて議論になる可能性もある。

 WGの議論は,地上デジタル放送に特化して検討が行われている。それだけに,どれだけ周辺の放送システムに影響が及ぶのか,予想がつかない状況である。

 今回の報告で気になったのが,技術と契約によるエンフォースメントで対応できない範囲を対象にした制度エンフォースメントの検討を進める方針が示されたことである。新方式の概要を固めた上で,適切な場で現行法制度の実効性を検証したうえで,補完的制度の要否を含めて検討を開始し,進めるという。検討委員会では,「B-CASによるエンフォースメントは破たんしている」という考えの委員もいる。新方式が導入されても,B-CASとサイマルクリプトであり,状況は変わらない。たとえ補完的位置づけであっても,制度エンフォースメントの議論が進まないと,難色が示される可能性は否定できない。