たった1枚の顔写真。そこから自動で無限の表情を作り出す。目がクルクルと回り,口元が動く。笑い顔も泣き顔も自由自在。いつも見ているはずの顔が,自分の知らない表情でこちらを見つめ,話しかけてくる。
そんな画像処理技術がインターネットの販促ツールとして注目を集めている。ネット接続大手のソネットエンタテインメント子会社,モーションポートレート(東京・品川)が開発した。
2007年7月の会社設立以来,化粧品大手の資生堂や,かみそり大手のシック・ジャパンなど30社を超える企業が同社の技術を販促ツールとして採用。家庭用ゲーム機向けのソフトなどでも多くの採用事例がある。人の顔という最も身近な対象を使った応用が,消費者の興味と親近感の呼び起こしに一役買っている。
モーションポートレートの画像処理技術は,2006年に活動を終えたソニー木原研究所で生まれた。国産初のテープ・レコーダーや家庭用VTRを開発したソニーの元専務,木原信敏氏が設立した研究所だ。家庭用ゲーム機「プレイステーション 2」の技術開発などでも有名な同研究所の強みだった,画像処理やコンピュータ・グラフィックス(CG)の技術が,インターネットを舞台に再び花開こうとしている。
顔写真で3次元グラフィックスを生成
社名と同じ中核技術「モーションポートレート」は,1枚の顔写真から目や口の形状などの特徴を自動で抽出し,それを元にその顔によく似た3次元グラフィックスを作り出す。目や口などを自由に動かせるのは,静止画をCG化しているからだ。
対象は,あえて人間の顔に限定。この割り切りで特徴抽出のプロセスなどを簡素化し,高速処理を実現した。パソコン・サーバーならば,2秒ほどで顔のCGを生成できる。一度生成したCGデータを使えば,携帯電話などの組み込み機器でも十分に描画が可能だ。顔写真をネット経由でWebサーバーに送信し,サーバー側でCGを生成。結果を携帯電話に戻すことで“動く顔”を描画する。